『週刊ダイヤモンド』7月1日号の第1特集は「攻める睡眠、守る睡眠」です。近年の脳科学の進歩によって、睡眠のメカニズムが少しずつ解明され、睡眠をおろそかにすると命に関わること、一方で、睡眠の質を高めれば日中のパフォーマンスが向上することがわかってきました。あなたの人生を大きく変える可能性を秘めた睡眠を、この特集で見直してみてください。

ビジネスパーソンの3人に1人が不眠──。驚くべき数字だが、これが日本の現状だ。

 夜寝付きが悪い、夜中に何度も目が覚める、早朝に目が覚めるといった不眠は、もはや日本人の国民病といっても過言ではない。

 国際的に見ても、「不眠大国」日本は際立っている。経済協力開発機構(OECD)が2009年に世界18カ国を対象に行った調査によれば、日本の平均睡眠時間は7時間50分と、韓国と並んで最短水準にある。最も睡眠時間が長いフランスと比べると1時間も短いのだ。

 さらに、日本人の平均睡眠時間は年々短くなっている。厚生労働省の調査によると、睡眠時間が6時間未満の人の割合は、07年以降増え続けており、15年には約4割に上っている。年代別に見ると、40代の男性で6時間未満の割合が半分近い。

 日本人の睡眠時間の短さは、長時間労働と無関係ではない。厚生労働省「過労死等防止対策白書」によれば、日本の労働者の所定外労働時間は09年以降増加し続けている。また、週60時間以上働いている人の割合を年代別に見ると、15年は40代男性の割合が最も多い。

 不眠の悩みは極めてプライベートな問題だと思いがちだが、長時間労働という日本的労働慣習がその背景にあり、単なる個人的問題として片付けることはできない。日本大学医学部精神医学系の内山真主任教授の推計によれば、睡眠障害による経済損失は3兆4694億円に上る。うち約3兆円が、睡眠不足による作業効率の低下によってもたらされている。

 睡眠の問題がもたらすのは経済損失だけではない。睡眠不足は、高血圧症や糖尿病、がんや認知症にかかるリスクを高め、放置すれば命取りともなりかねないのだ。

 平均8時間睡眠とすれば、人生の3分の1を睡眠が占めることになる。あらためて、自分の睡眠を見直してみてほしい。

 本特集では、不眠による病気のリスクから身を守るための「守る睡眠」、そして仕事や勉強の効率を高めるための「攻める睡眠」のノウハウをまとめた。以下、いくつか紹介しよう。

ベッドで寝付けないときはどうすればいい?

 夜、なかなか寝付けないとき、一昔前までは、眠れないときはベッドで横になっているだけでもいい、といわれていたが、「今の不眠の教科書では、言ってはいけないことになっている」(国立精神・神経医療研究センターの三島和夫部長)。

 作業療法士で脳の機能を生かした人材開発を行っているユークロニア代表の菅原洋平氏によれば、「われわれの脳は、場所と行為をセットで記憶する」。ベッドに入って眠れない状態が何日も続くと、「ベッド」という場所と「眠れない」という行為がセットで脳に記憶されてしまう。その結果、ベッドに入るだけで、眠れないのではないかと不安になり、緊張して目が覚めてしまうのだ。

 三島部長によれば、脳の検査などに使われるMRI(磁気共鳴画像装置)で不眠の悩みを抱える人の脳を見ると、寝室の画像を見た際に脳の覚醒を促す神経活動が活発になるという。このような人たちは、会議室や電車の中など、眠ろうと身構えない場所では逆に眠ってしまう。

 では、寝付けないときはどうしたらいいのか。

 目安として15分くらいたっても眠れないときは、ベッドから出て寝室から別の部屋に移った方がいい。ベッドという場所と眠れないという行為をセットで脳に記憶させないようにするためだ。そして眠くなるまでは再びベッドに入らないようにする。

 眠れないときに、ベッドで本を読んだりする人もいるが、これもやめた方がいい。ベッドと読書がセットで記憶されてしまうからだ。退屈な本を読んでいれば眠くなるのではと思うかもしれないが、活字を読むことは、内容に関係なく脳を覚醒させる作業なので注意しよう。

 毎晩23時には寝よう、などと就寝時間を決めている人もいるだろう。しかしベッドに入ってもなかなか寝付けないのでは、意味がないどころか有害ですらある。

 眠くなるまでベッドには入らない、眠れなければベッドから出る、といった発想の切り替えが重要だ。

コーヒーは「起きてから飲む」ではなく「飲んでから眠る」

 体内時計の生体リズムが停滞し睡眠負債が蓄積してくる昼すぎの時間帯は、どうしても眠くなる。6時に起床した場合はちょうど14時くらいの時間帯だ。当然、脳や体の働きも停滞し、パフォーマンスも落ちてくる。
 
 事実、居眠り運転による交通事故の発生率は、交通量がそれほど多くない14〜15時ごろが最も高くなっている。

 眠気が強くなる「魔の時間帯」を乗り切り、午後のパフォーマンスを高めるのに最も効果的なのが仮眠だ。眠気を抱えて効率の悪い仕事を続けるよりは、短時間の仮眠で生産性を上げた方がいい。

 ただし、仮眠にはルールがある。それは仮眠の長さを10~20分程度に抑えることだ。30分以上眠ってしまうと深い睡眠に入ってしまい、目覚めたときに眠気が取れずぼーっとして、パフォーマンスも落ちてしまう。それだけでなく、夜の睡眠分を先食いしてしまうため、寝付きが悪くなって睡眠の質も低下する。そこで活用したいのがコーヒーだ。

 眠気覚ましにコーヒーを一杯──。そんなふうにコーヒーを飲んでいる人が多いのではないだろうか。

 しかし正確には、この行動は間違っている。コーヒーに含まれるカフェインには、覚醒作用はないからだ。カフェインは、アデノシンという睡眠を誘発する物質の働きをブロックして、眠くなるのを防いでいるだけなのだ。

 また、カフェインは飲んでから脳に届くまで約30分かかり、いったん届いたカフェインは4時間程度残留する。

 この性質をうまく利用すると仮眠の効果を高めることができる。仮眠の前にコーヒーを飲むのだ。カフェインは効くのに30分程度かかるので、仮眠して目覚めるころに眠気がブロックされ、その後4時間程度はその状態を保ってくれる。コーヒーは「起きたら飲む」ではなく「飲んでから眠る」が正解だ。

命に関わる「睡眠負債」、今こそ睡眠を見直そう

 『週刊ダイヤモンド』7月1日号の第1特集は「攻める睡眠、守る睡眠」です。

 最近、「睡眠負債」という耳慣れない言葉をあちこちで見たり聞いたりするようになりました。これは、睡眠不足=睡眠の借金が積み重なった状態のことで、睡眠が足りていれば、毎日眠ることでゼロに戻すことができます。

 しかし睡眠不足が続くと睡眠負債がどんどん膨らみ、高血圧症や糖尿病、がん、認知症などの重大な病気にかかるリスクが増すだけでなく、将来の死亡率が高まることもわかってきました。睡眠をおろそかにすると、命に関わるのです。

 特集では、日本人の国民病ともいえる不眠の悩みに、ずばり解決法を提示しました。寝付けない、トイレに何度も起きる、朝起きられないなど、切実な悩みをお持ちの方はぜひご覧ください。

 睡眠負債が命に関わるリスクがある一方、睡眠の質を高めれば、日中の仕事や勉強の効率が上がることもわかっています。睡眠を生産性向上のためのビジネススキルと位置付けて、研修に取り入れる企業もでてきました。特集では、仕事のパフォーマンスを高めるための睡眠スキルを紹介しています。簡単にできるものばかりですので、ぜひお試しください。

 そのほか、ぐっすり眠ってすっきり目覚めるための快眠グッズや、高級マットレスをお試しできるホテルリスト、キャビンアテンダントや商社マンに聞いた時差ぼけ解消法など、睡眠に関する情報が満載です。

 もうすぐ暑くて寝苦しい夏がやってきます。この季節にぜひ、本特集で快適な睡眠をお楽しみください。