『週刊ダイヤモンド』10月14日号の第一特集は「初調査! ニッポンの老害 相談役・顧問」です。多くの上場企業にいる「相談役」や「顧問」。しかし、開示項目ではないため、その存在の有無や勤務実態、報酬などの情報はほとんど知られていませんでした。しかし2018年1月から任意の公開制度が始まります。ついにベールに包まれていた「奥の院」についに光が当たるのです。特集では、上場企業へのアンケートを通して、一足先にこの「奥の院」を覗いてみました。また、コーポレートガバナンス(企業統治)向上のために、「相談役」「顧問」制度を自ら改革しようと取り組むメガバンクの苦闘も紹介します。

 メガバンクグループの一角、みずほフィナンシャルグループ(FG)が“フライング”に向けて最終調整を行っている。本稿を執筆している10月2日時点では未発表だが、2018年1月の相談役・顧問に関する開示制度開始を待たずして、10月中にも自ら公表する見通しだ。

 かつて、コーポレートガバナンス(企業統治)劣等企業だったみずほFGが生まれ変わったきっかけが、2013年に発覚した暴力団融資問題だ。その2年前には、東日本大震災のさなかにシステム障害も起こして批判を浴びていた。

 陣頭指揮を執っていたみずほFGの佐藤康博社長は、相次ぐ不祥事の真因をガバナンス不全と見定め、大なたを振るう。

 みずほFGは、旧第一勧業銀行と旧富士銀行、旧日本興業銀行の3行が「対等」の名のもとに合併。その結果、グループ内の主要ポストを旧行で分け合い、自らの縄張りは死守する一方で、その外で起こる面倒事は見て見ぬふりをする企業文化が巣くってしまった。

 さらに、頭取経験者をはじめとする重鎮OBは旧行ごとに存在するため、その数は普通の3倍。そのOBが毎年の人事異動のたびに「うちが割りを食った」と、旧行後輩の経営陣に不満をぶちまけるなど、昨今の相談役・顧問問題の先駆け的存在ですらあった。

 一つの会社とはいい難いこの状況を一掃するため、佐藤社長はOBの影響力排除に乗り出す。各旧行の出身幹部が自らの有力OBの元へ出向いて説得。生まれ変わることを宣言した。

 また、みずほFGのガバナンスを「指名委員会等設置会社」という体制に一新。そして、社長・会長として日立製作所の再建を担った川村隆氏をはじめ、実力派の社外取締役を三顧の礼で迎えた。

 さらに、取締役の選任や解任を決める「指名委員会」を全て社外取締役で占めることにまで踏み切った。佐藤社長自身の進退も含めて、みずほFG本体やみずほ銀行などの中核子会社における人事権を社外に明け渡したのだ。

 今のみずほFGには、「常にガバナンスで最先端を走る」(みずほFG幹部)という気構えを持っており、相談役・顧問に関する情報開示の“フライング”もその意識の表れだ。

銀行頭取の早期退任をきっかけに
改革に着手した三菱UFJFG

 そんなみずほFGの後を追って相談役・顧問問題に着手しているのが、同じメガバンクグループ最大手の三菱UFJFGだ。

 きっかけは今年5月、中核子会社である三菱東京UFJ銀行の小山田隆頭取(当時)が、体調不良を理由にわずか任期1年で退任したことだった。

 この時、三菱UFJFGでは、グループ内の旧行の縄張り争いやOB感情を逆なでする、事業再編や銀行名の変更の議論が進められていた。そのため、小山田氏の退任の裏側には、重鎮OBである相談役・顧問と会社の経営方針との板挟みがあったのではないかと取り沙汰されたのだ。

 というのも、左図を見てほしい。三菱東京UFJ銀行は3メガバンクの中で唯一、相談役・顧問が現役経営陣と“同じ屋根の下”にいることからも分かるように、両者の関係が近い。

 本店8階が役員フロアで、その上の9階が相談役・顧問のフロアとなっており、毎月、頭取や副頭取が有力OBに対して決算や個別案件の説明をする「相談役会」と称するものまである。さらに、相談役・顧問は車・個室・秘書の3点セット付きの終身制ときている。

 このままでは、相談役・顧問問題の事例の一つと疑われても仕方がないと思ったのだろう。三菱UFJFGは指名委員会において、相談役・顧問制度見直しの検討に入った。

 事情に詳しい関係者によれば、「終身制」はなくなる見通しだが、三菱UFJFGの平野信行社長はメリットも感じているようで、「制度の撤廃まではしたくないようだ」という。

 また、制度の見直しを議論する指名委員会のトップである奥田務委員長が、どこまで切り込むことができるのかを不安視する声も挙がる。「自身も出身企業であるJ・フロントリテイリングの相談役なのに、他社の相談役・顧問制度を改革できるのか」(別の三菱UFJFG関係者)というわけだ。
「世間で言われるような、相談役・顧問からの経営介入はない」(三菱UFJFG幹部)という意見もあるが、今後それを疑われることがないような見直し結果が待たれる。

現社長の上司だった相談役・顧問
遠慮する時代ではなくなった

 元社長である相談役・顧問は、現経営陣にとっての元上司であることがほとんど。その元上司に対して、影響力排除のための仕組みを導入したり、または退任を促したりすることは、勇気のいることだ。

 だが、もはや躊躇していられる時代ではない。2018年1月には任意ながら公開制度が始まり、投資家をはじめとしたステークホルダーの目はより厳しくなる。みずほFGや三菱UFJFGの経てきた改革への茨の道は、今後、多くの上場企業が歩む道なのかもしれない。

 週刊ダイヤモンド10月14日号「初調査! ニッポンの老害 相談役・顧問」特集では、制度の詳細や背景、世に存在する相談役・顧問のタイプ、アンケート結果など、相談役・顧問制度の実態を余すところなくお届けする。