日本で食の欧米化が進んで久しい。それに合わせて、肥満・体重過多の人の比率もじりじりと上がっている。

 現在、男性の3人に1人、女性の5人に1人が「BMI(体重÷身長の二乗)25以上」の肥満だ。日本肥満学会が定めた肥満の基準でいえば、身長1.7メートルの人で、標準体重(BMI22)の目安は63.6kg。BMI25の72.3㎏が肥満の入り口で、BMI35の101.2㎏以上が高度肥満となる。肥満症(BMI30以上)の発症者が約7500万人にのぼる米国には及ばないが、日本も背中を追いかけていると言えるだろう。

 日本では、特に男性の肥満が増加傾向にある。厚生労働省の「国民健康・栄養調査(平成20年)」によれば、成人男性に占める肥満者の割合は15年前の24.8%から約5ポイント増えている。なかでも気になるのは、「男性の肥満者の約3割は体重を減らそうとしていない」(厚生労働省)との分析である。

 肥満にもさまざまなタイプがあるが、危険視されるのは内臓脂肪の面積が100平方センチメートル以上ある「内臓脂肪型肥満」の人だ。心筋梗塞などの心疾患のほか、高脂血症や脂肪肝などさまざまな合併症を起こしやすいと言われる。このため、まずは「男性で腹囲85センチメートル以上の人は、CT撮影で内臓脂肪を確認したほうがよい」(森下竜一・大阪大学大学院医学系研究科教授)。

 もっとも、太っているとはわかっていても、ダイエットを遂行するのは容易でない。糖尿病で薬の服用が必要になる一歩手前、または脂肪肝がわかって、やっと本気でダイエットに取り組む人が多いのが現状だ。自己管理だけでは痩せられないと思った場合は、専門病院を訪れるのも手だろう。昨今は、「ダイエット外来」「メタボリックドック」などと銘打った診療部が全国に増えている。

 そうした病院で薦められるのは、まず食事療法や運動療法だ(BMI35以上では、運動が危険な場合もある)。これらと併用される薬物療法もあるが、日本で認可されている食欲抑制薬は「マジンドール」の1つのみ。しかも健康保険が使えるのは、太りすぎて運動もままならない高度肥満者に限定されるうえ、眠気などの副作用も強いとされる。

 ただし現在、武田薬品や塩野義製薬など医薬品メーカーが抗肥満薬の開発にしのぎを削っている。国内外で近い将来、新たな抗肥満薬が登場する可能性は高い。

  抗肥満薬の安全性に対する見方は厳しく開発の道は険しいが、減量療法の選択肢を広げる意義があるのも事実だ。 「肥満は贅沢病といった意識が根強く、薬に頼ることは否定されがち。ただし、日本人は小太りでも塩分摂取が多いなど、欧米人と異なる病気の発症リスクがある。BMI27.5を超える人は、医師の指導を受けながら抗肥満薬などを活用したほうが無理なく効率的に痩せられる場合も多い。結果としてその他の合併症発症を食い止められる」(森下教授)との考え方も徐々に増えている。

 抗肥満薬市場の規模は、米国の200億円超に比べて、日本では数億円程度とはるかに小さい。「包括的な肥満の予防戦略によって、日本における慢性疾患による年間死亡者数を15.5万人減らせる」というOECD(経済開発協力機構)の推計も出たが、農業支援やスポーツ施設を増やすなど政府施策はままならない。“病気予防”を目的とした抗肥満薬の活用も増えていく可能性はある。ダイエットも、薬で痩せる欧米化が進むのだろうか。

(「週刊ダイヤモンド」編集部 柴田むつみ)

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