「PSAとは出資の額や比率を交渉する段階にないのに──」

 仏プジョー・シトロエングループ(PSA)からの出資話が報道された12月初頭、三菱自動車首脳は当惑した。「まだ本格交渉に入るための基本合意書も締結していなかった」(同社幹部)のである。

 2004年に独ダイムラー・クライスラー(当時)から経営支援を打ち切られて苦しんだだけに、外資を警戒する社員が多く、経営陣は社内の動揺を静めることに追われた。

 ただ、同社の経営再建を支援している三菱グループ関係者たちは、「図らずも衆人の知るところとなり、提携交渉は加速する」と歓迎ムードだ。業務提携を重ねて親密な関係を築いたPSAは資本提携先の「本命」であり、「来年には決着がつくだろう」と見る。

 ダイムラーとの関係解消後、三菱自動車の再建は三菱グループが総勢で支えてきた。三菱東京UFJ銀行、三菱商事、三菱重工業などグループ各社が引き受けている優先株は計4400億円を超える。

 本来は今期末から年220億円の優先株配当が始まるはずだが、累積損失を8000億円以上抱えるため、今期無配は必至。グループ各社はそんな状態で今後4年、5年と長期支援を続けることは難しい。

 関係者の声を集約すると、待ってあと2年ほど。痺れを切らして普通株に転換されれば、株式が希薄化され、今度は既存株主からの反発を受けることになる。

 資本政策につながるパートナー探しは至上命令であり、PSAの出資を受ければ、優先株の買い戻しの原資となる。PSAの経営状況を見極める必要はあるが、出資比率がグループ保有の3割を上回ることにもグループ内から強い拒否反応は出てはいない。

 今月9日、スズキが世界販売台数3位の独フォルクスワーゲン(VW)との資本提携を発表したように、新興国市場の開拓と電気自動車など環境技術を軸に世界再編の機運が盛り上がりを見せている。スズキの場合、インドなどアジア市場での強さがVWを引きつけた。今秋からの本格交渉で合意したスピード婚により、世界最大手勢力が形成される。

 量産型電気自動車を開発した三菱自動車にとってもこのタイミングははずせない。「複数社と提携の可能性を探っている」という三菱自動車首脳。まずは本命、PSAとの交渉にアクセルを踏むことになる。

(「週刊ダイヤモンド」編集部 臼井真粧美)

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