2020年までにジョブ・カード取得者を300万人にする──。昨年12月に閣議決定された「新成長戦略」の重要政策として、ジョブ・カード制度の導入が明記された。だが一転、10月末に行われた事業仕分けによって、その関連事業に「廃止」判定が下された。政府の雇用政策にブレが生じている。

雇用政策の目玉も事業仕分け<br />ジョブ・カード廃止判定の波紋長妻昭・厚生労働大臣時代に普及を進めたジョブ・カード制度の関連事業に「廃止」判定が突き付けられた
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 今年6月、食品包装の印刷を専業とする東京ポリエチレン印刷社(本社は東京都板橋区)の埼玉工場では、ジョブ・カード制度を利用した採用活動を行った。

 ジョブ・カード制度とは、フリーターなど正社員経験の少ない人を対象とした就職支援制度のことだ。対象者は、ハローワークでキャリアコンサルタントの指導を受けながら職務経歴、職業訓練の経験を取りまとめた「ジョブ・カード」を作成し、それを企業へ提出することで就職へとつなげる。制度のメニューには、企業が実施する雇用型訓練や民間教育機関が実施する委託型訓練といった職業訓練が含まれており、実践的な技能を習得することもできる。

 東京ポリエチレン印刷社では、求職者2人に対して、ジョブ・カード制度の下で3ヵ月間の職業訓練を実施した。

 これまで、通常の採用方式で正社員雇用も行ってきたのだが、工場内のインクのにおいが強かったり、数十キログラムもある包材を巻いた筒を運搬したりする重労働の業務があり、若い社員がなかなか定着しなかった。だが、今回のように3ヵ月も研修期間があれば、「求職者・採用企業がコミュニケーションを取りながらマッチングすることが可能だ。求職者は自分の適性を判断できるし、企業は定着する人を採用できる」(古川忠管理部部長)と、ジョブ・カード制度のメリットを挙げる。

 とりわけ、こうした慢性的な人手不足に陥っている中小企業のあいだで、ジョブ・カード制度は歓迎された。国から制度のサポート事業を委託された日本商工会議所によれば、職業訓練を実施した企業の8割が中小企業だったという。

 ところが、である。10月末に実施された行政刷新会議による事業仕分けにおいて、企業への助成額が多過ぎるなどとして、ジョブ・カード制度の関連2事業に「廃止」判定が下された。

 古川管理部部長は、「中小企業にとって、有能な正社員獲得につながるジョブ・カード制度は本当にありがたい。政府は雇用創出が大事と明言しながらも、もともと厳しい財政事情を理由に事業を廃止するとは本末転倒だ」と憤る。

 全国に散らばる商工会議所には、「職業訓練プログラムを策定していた企業、導入を検討していた企業から、ジョブ・カード制度が継続されるか否かについての問い合わせが殺到している」(菊地敏義・中央ジョブ・カードセンター担当部長)。企業はジョブ・カード制度廃止の可能性をうかがっており、現場は混乱している。