捜査等当局からの協力要請

 A興業は、事業用賃貸不動産の開発、販売を主たる業務とする、中堅の上場不動産業者であった。

 不動産物件の仕入れに際しては、既存テナントの「立ち退き」が必要となるケースもある。その際にトラブルが生じそうになると、上場企業としてのクリーンなイメージを維持するために、交渉の矢面に立つことを回避しながら、一方で迅速な「立ち退き」を実現するために、外部の専門会社を利用して立ち退き交渉を進めることも少なくなかった。

 その日、A興業の総務担当取締役Xは、捜査当局からの呼び出しを受け、丁重ではあったが、威圧的な雰囲気の要請を受けていた。A興業がテナントの立ち退きに関して業務委託しているH社が、暴力団組織と密接な関係を有する、いわゆる反社会的勢力の可能性が高いとして、当局がマークしているというのだ。

「ついては、今後の調査に協力してほしい」というのが、要請の趣旨であった。取締役Xは、捜査当局の呼び出しから戻ると、すぐに社長を訪ね、捜査当局からの要請を報告するとともに、今後の対応の指示を仰いだ。

「確かに、H社に関しては、テナントから対応が乱暴だのクレームを受けたことが何度かあったな。しかし、うちが直接手を下しているわけでもないし、H社の側でうまく対処するということで、任せてきた。うちには特に問題はないはずだ。H社との関係は、開発担当のY取締役に任せているから、Y取締役と相談しながら、捜査当局には積極的に協力するように」との指示があったが、特にそれ以上の言及はなかった。

 これを受けて取締役Xも、当局からマークされているのは、あくまでH社なので、当局の要請に粛々と対応すれば十分であると考え、それ以上の対策をとることもなく、時間が経過するのに任せていた。