伊藤忠社長が語る「がむしゃらに働き、悩み抜く力が一流の条件」Photo:Kazutoshi Sumitomo

商社業界に新風を吹き込むような革命を次々と手がけた岡藤正広・伊藤忠商事社長。繊維部隊の社員だった時代から一環して泥臭く悩み抜き、磨き上げた現場感覚を大切にする、「総合商社の革命児」に話を聞いた。(聞き手/ダイヤモンド社論説委員 鎌塚正良)

社長は自室にこもっていては
現場が分からなくなる

――岡藤さんがこれまで手がけてこられたさまざまな戦略や改革は、もちろん中国のコングロマリット・CITICへの巨額投資など大掛かりなものもありますが、たとえば東京メトロ外苑前駅の出入口から正面玄関までのほんの数メートルの間に作った雨除け屋根など、非常に細かなものも多い。通常なら、トップが目配りする範疇を超えていると思うのですが、こういう潜在的で小さなニーズを探るために、心がけていらっしゃることがあるのですか。

岡藤 潜在ニーズを探ると言っても、まぁ性格でしょうな。もちろん、社員から聞かされるいろんな困りごとの中には「それは個人的な問題やろ」と思うものもありますよ。だけど、僕自身が「そうやな、これはおかしいな」と思ったら、もうじっとしていられない。

 社長室にずっといるのでは分からないことがたくさんあるから、僕はいろんな所へ行ったり、社員とも一緒に飲んだりしてよく話をするわけです。そこで出てくる話を自分の身に置き換えて考えてみると、「なるほどな」と思うことがたくさんある。同じ目線で接するのが、やっぱり大事やなと思うんですよね。

 社長に就任した当初、お昼に何の予定もない日の昼飯は、社長室でファミリーマートのおにぎりや味噌汁なんかを食べていたんです。そうしたらある時、「社食で社長の姿を見ない。おそらく部屋で毎日、鰻丼やステーキを食べてるんだろう」と言っている社員がいた、と聞かされたんです。

「ああ、そんな風に思うんかいな」と知りました。毎日、鰻丼やステーキばっかり食べてたらフォアグラ状態になって、社長なんてやってられないんやけど(笑)。でもやはり現場には、社長の日常なんて分からないんですね。それからは、昼に会社にいるときは、できるだけ社食でみんなと同じものを食べています。姿を見せて直に接し、同じ言葉で話すことが大事なんです。

――それは商売でも生かされていますか。

岡藤 例えば伊藤忠はジーンズのエドウインを事業会社にしていますが、ここの商品は僕もはいているんですよ。あるときね、腰の切り返し部分の裏側(腰裏)に派手な柄生地をあしらっているものがあって、内心は「裏返ると下着が見えてるみたいで、ちょっとなあ」と思ったんだけど、東南アジア出張の時に、はいて行ったんです。そしたら現地で、「社長、パンツが見えてます」と言われてね。「やっぱりみんなそう思うんや。僕だけじゃなかった」と分かって、すぐに担当部署に行って、「これは問題やろ。改善したほうががいいんじゃないか?」と言ったんです。