引きこもりとは直接関係ないかもしれないが、年末、衝撃的な出来事が報じられた。

 12月26日付の毎日新聞朝刊によると、体調不良を訴えた統合失調症の44歳男性が救急車を呼びながら、13病院に受け入れてもらえず、約14時間後、自宅で腸閉塞によって死亡したというのである。

 記事では、両親が「どうして心の病というだけで診てもらえなかったのか」と訴える。関係者にとっては、他人事とは思えなかったに違いない。

 一生懸命、頑張ってきたのに、なかなか社会に受け入れてもらえない。そんな“社会に定着できない人たち”が、たくさんいる。

 社会がどこか、いびつなものになってきているのではないか。どうやって人生を立て直していくかを考えてみたときに、親元から1人立ちして、経済的に自立した生活を送ることが、現実的に相当厳しくなってきているのである。

「40代無職」では部屋も借りられない
引きこもりの自立を許さない社会

 今年、ある40代の「引きこもり」男性から、自らの置かれた状況を象徴するような話を聞いた。

 男性は大学を卒業後、ようやく入った会社に勤務していた頃から、夜、眠れなくなる日々が続いた。

 精神科でもらった睡眠剤を飲み始めると、昼間の職場で眠くなって、集中力が保てない。仕事中にウトウトすることが多くなり、上司から怒られた。

 遊んでいるわけでもないのに、どうにもならない。そのことが次第にストレスになり、自ら会社を辞めた。

 その後、正社員の仕事を探してきた。しかし、98年当時の不況の影響で、なかなか正社員の雇用がない。やっと仕事が見つかっても、長続きしなかった。

 しばらく何もしない状態が続き、実家に戻って、家にいるようになった。

 男性は、自分が「引きこもり」だと思ったことはない。しかし、世間では、自分のような存在がそう呼ばれているらしいことを最近になって知った。

 ところが、そんな10年余りにわたった「引きこもり」期間も、終わらせなければいけないときがやって来る。

 男性はこれまで、年老いた親の企業年金に頼る生活を続けてきた。しかし、生活費が少しずつ家計を圧迫。家族は家賃が支払えなくなり、年末には住み慣れた家を出て、アパートに引っ越さなければいけなくなったのだ。