借金、補助金、農薬、肥料、ロス、大農地、高額機械、宣伝費ぜんぶなし!
しかも、夫婦2人、初期投資は143万円だけ!
なのに、年間売上1200万円、所得(利益)600万円も「幸せに稼いでいる」人物が、石川県能美市にいるという。
東京から金沢まで約2時間半、そこから在来線で30分。そこにそびえ立っていたのは……ビニールハウス4棟、サッカーコートの半分、通常農家の10分の1の耕地面積=たった30アールしかない「日本一小さい専業農家」で、「菜園生活 風来(ふうらい)」代表の西田栄喜氏(48)。
かつてオーストラリア中をオートバイで走っていた西田氏は、元バーテンダー、元ホテル支配人だったという。
いま、風来で「怪現象」が起きている。
それは、2000円の野菜セットに送料2800円(沖縄)出す人もいて、野菜セットは「3週間待ち」というのだ。
日本海を臨む「日本一小さい農家」で、いったい何が起きているのか?
『農で1200万円!――「日本一小さい農家」が明かす「脱サラ農業」はじめの一歩』が発売された著者に、「リピーターをつくる秘訣」について語ってもらおう。

リピーターをつくるには?

なぜ、地方の「小さい農」でも、<br />また買いたいと行列ができるのか?西田栄喜(にした・えいき)
菜園生活「風来」(ふうらい)代表。大学卒業後、バーテンダーとなる。その後、ビジネスホテルチェーンの支配人業を3年間勤務。その後帰郷し、1999年、知識ゼロから起農。小さなビニールハウス4棟、通常農家の10分の1以下の耕地面積である30アールの「日本一小さい専業農家」となる。3万円で購入した農機具などで、50品種以上の野菜を育て、野菜セットや漬物などを直売。生産・加工・販売を夫婦2人でやりながら、3人の子どもたちと暮らす。借金なし、補助金なし、農薬なし、肥料なし、ロスなし、大農地なし、高額機械なし、宣伝費なしなど、“ないないづくし”の戦略で、年間売上1200万円、所得(利益)600万円を達成。基準金額95%未満でも105%超でも反省する「売上基準金額経営」を実践。地域とお客さんとのふれあいを大切に、身の丈サイズで家族みんなが明るく幸せになる農業を行う。著書に『小さい農業で稼ぐコツ』がある【風来HP】
http://www.fuurai.jp/

 値段のつけ方については、原価からの利益率も考えていますが、風来で大切にしているのは、この価格でもう一度買ってもらえるかということ。
 これはバーテンダー時代、師匠から教わったことが影響しています。

 その教えとは、

「サービスマンの仕事は、お客様のためでなく、お客様に“また”きていただくためにする」

 ということ。

 通り一遍にお客様のためというのであれば、量が多くとにかく安くすればいい、となるかもしれません。
 でも、それならば、別に風来で買う必要はありません。

 そうではなく一度購入された方が、この価格でこのクオリティなら満足できるというラインを心がけています。
 ですから、必要以上に安くする必要はありません。

 最初は敷居が高い値段であっても、何度もリピートしていただくと、自信を持って出せるならそれでいいと思えてきます。
 これは野菜セットのみならず、漬物やお菓子、その他のものすべてに通底しています。

想像以上の売れ行きだった商品

 また、風来の冬場の人気商品が鍋セットです。
 現在のラインナップは、「風来特製キムチ鍋セット」と「風来特製豚しゃぶ鍋セット」になります。

 発想のきっかけは、自家製キムチをもっと活用できないかと思っていたところ、近所にこだわりの養豚農家や、地元大豆からつくられた豆腐をつくる豆腐屋、そして原木シイタケ農家が同時にいたことから、鍋セットを思いついて販売してみたことです。
 すると、想像以上の売れ行きとなりました。

 また、贈答用にと、まとめて使っていただいたり、とあるカタログ会社の目に留まり、ゴルフコンペの景品として全国で使われたりしています。
 今、鍋セットは冬場の目玉商品(多いときには月50セット・15万円以上の売上)で欠かせない存在になっています。

 これも、コンセプトがあるセットだからこそです。
 大事なことは、販売するのは自分で育てた野菜や加工品と限定せず、地域の方と手を組んだセット販売もOKと考えると、可能性は大きく広がります。

 風来でも、焼肉セット、冷しゃぶセット、カレーセットなど、ことあるごとにセット販売を試みています。
 ヒットするものもあれば、しないものもありますが、基本リスクがないので気軽にできます。
 また、セットがあるとそれが買い物の中心になるので、セットを入口にいろいろなものをついで買いしてもらえます。