老舗企業にも残る「襲名」制にブランド刷新のヒントあり

襲名前の歌舞伎役者はなぜ
好意的に扱われるのか

成毛 襲名の前になるなぜかと歌舞伎役者が週刊誌やワイドショーをにぎわすことが多いような気がするのですが、気のせいでしょうか。内容にもよりますが、おおむね好意的に取り上げられます。

おくだ どういうことなんでしょうね。

老舗企業にも残る「襲名」制にブランド刷新のヒントありなるけ・まこと
1955年北海道生まれ。中央大学商学部卒。マイクロソフト日本法人社長を経て、投資コンサルティング会社インスパイア取締役ファウンダー。書評サイト「HONZ」代表。『本棚にもルールがある』(ダイヤモンド社)『ビジネスマンへの歌舞伎案内』(NHK出版)『教養は「事典」で磨け』(光文社)など著書多数。
Photo by Kazutoshi Sumitomo

成毛 老舗の企業もよほどのことがない限り、悪く書かれることはありません。とある超老舗企業なんて、創業家による横領で存続が危ぶまれたのに、それでも続いたことが美談にすらなっています。

おくだ 老舗企業は、長くやっているうちに生き残るすべを身に着けているのかもしれませんね。歌舞伎役者のそれぞれの家にもそれを感じられます。たとえば、八代目の中村芝翫さんは、たくましい男役が得意ですが、お父さんつまり七代目は女形で、さらにたどるといろいろなタイプの“芝翫”がいました。そうやってフレキシブルであることが、芝翫という名を存続させるために必要だとわかっているのでしょう。菊五郎さんだって、かつては悪役専科でしたが今は違います。

成毛 そうそう、同じ名前だからといって、何から何までまったく同じである必要はないんですよね。例外的なのは市川團十郎さんくらいでしょう。

おくだ そうですね。それでいて歌舞伎の技の基本はしっかりと受け継いでいます。ただ、それ以上のものまで受け継ごうとして「この名前はこうあるべきだ」とやってしまうと、破たんします。

成毛 ですから、当代の特徴を出すことは必要ですね。食品卸の老舗である国分は代々、國分勘兵衛さんがトップを務めていて当代が12代目です。昔はこうやって名前を継ぐことが当たり前で、だからこそ、親子の違いはあって当然と周りにも認識されていました。ところが最近は名前を継がなくなっているので、同じ名前=同じやり方という印象が強くなっています。