三菱自の欧州生産撤退が浮上<br />復配目指し“負の遺産”を処理新中計で新興国の生産能力は「増強」、先進国は「適正化」を掲げた。日本は昨年末に日産自動車と軽自動車での協業拡大で合意し、日産へのOEM供給拡大で生産増を見込む
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 三菱自動車は欧州生産拠点からの撤退を検討する。赤字が常態化している欧米生産体制をテコ入れし、経営再建の足かせをはずす。工場のあるオランダで生産子会社の経営陣、労働組合、政府との話し合いを始めており、閉鎖回避策も模索したうえで最終決断を下す。

 オランダ工場では現在、欧州向け小型車「コルト」、SUV(多目的スポーツ車)「アウトランダー」を生産している。1月20日に発表した2011年度から3年間の中期経営計画では世界展開できる車種の開発に集中し、コルトを含め地域専用車は次期モデル投入を取りやめることが打ち出された。オランダ工場に対してはコルトの現行モデル生産が続く12年までは生産継続を約束しているが、翌年以降の計画は白紙だ。

 アウトランダーは08年に日本の工場から生産が一部移管され、稼働の底上げに貢献したが、それでもオランダ工場の稼働率は5割。年20万台を生産できる設備能力を持ちながら、一直体制によって年産10万台に能力を絞ったうえで、この実績だ。

 これほどの低稼働に陥ったのには事情がある。三菱自が同工場を他社との合弁から完全子会社へ切り替えたのは独ダイムラー・クライスラー(当時)と資本提携した時期であり、ダイムラー車の生産も見込んでいた。ところがダイムラーは三菱自への経営支援を打ち切り、04年に始めた生産委託も06年に中止。三菱自は単独で設備を丸抱えし、リーマンショックのパンチも食らって稼働率改善のメドが立たないまま現在に至る。

 オランダ唯一の乗用車工場に対しては同国政府の思い入れも強いが、小手先の規模縮小で赤字から脱却できないことは、これまでの実績から明らかだ。大規模な受託生産案件でも舞い込まない限り、閉鎖回避策として他社への売却などを模索していくことになろう。

 じつは稼働率は北米工場のほうがはるかに低く、一直体制でわずか2~3割。それでも北米は欧州市場に比べて今後の需要が見込めるとし、米国専用車の廃止後に輸出向けを含め新たな車種を生産することを決めた。「トヨタ自動車ですら地元の猛反対を受けながら米国工場の一つを昨年閉鎖した。より体力が乏しく、再建下にある三菱自こそ欧米の生産リストラは至上命令だ」と同社の再建を支援する三菱グループの関係者は指摘する。北米生産の存続を決断した以上、欧州からの生産撤退は避けられないというわけだ。

 新中計では環境対応車開発、新興国開拓に多額の投資を行う。タイ、中国、ブラジルで生産能力を増強し、ロシアでも新型SUVの本格生産を始める。ただ、成長分野への前向きな取り組みだけでは計画は完遂できない。並行して三菱グループ各社が引き受けた計4400億円の優先株、7700億円の累積損失、そして先進国での過剰供給という三つの“負の遺産”を処理して初めて、目標に掲げた「中計期間中の復配」が見えてくるのだ。

(「週刊ダイヤモンド」編集部 臼井真粧美)

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