南アフリカやインドネシアに住み、オランダや米国に出勤。月に20日ほどまとめて働いて、10日間は自宅でのんびり。世界のエアラインでは今、こんな勤務形態の派遣パイロット市場が伸びている。

 勤務条件や年俸は、条件によりさまざまだが、大型機で年俸1200万円程度。欧米のみならず、韓国や中国の大手エアラインでも、今や派遣パイロットは常識になりつつある。

 日本で唯一、派遣パイロットを本格的に活用しているのは、日本貨物航空(NCA)。パイロットのなんと7割が派遣の外国人だ。梅原慎史・経営企画部担当部長は「これからも増やしていくつもり」と話す。

 飛行機での通勤費用や勤務中のホテル代を払っても、正社員で雇うよりは断然コストが安い。

 労働者派遣法の縛りがあるため、日本国内で派遣パイロットを雇うのは割に合わない。国際貨物便のみ運航しているからこそ、派遣パイロットのメリットがある。

 デメリットは訓練期間の長さ。派遣パイロットであっても、国土交通省が定めるパイロットの試験に合格しなければならないが、日本の基準は独自色が強すぎて、訓練から合格までに半年もかかる。

 一方、キャセイパシフィック航空(香港)やエミレーツ航空(アラブ首長国連邦)など、外国のパイロット免許でそのまま操縦桿を握れる国もあり、「日本の法規制はうるさすぎる」(エアライン関係者)。

 日本航空(JAL)はかつて、リゾート路線で派遣パイロットを活用していたが、危機感を感じた正社員パイロットの組合が反対して活用を中止。全日空(ANA)もリゾート路線で一部活用しているが、目立った人数ではない。

 多くの外国エアラインではすでに、派遣パイロットは常識。コアな人数だけを正社員にし、あとは派遣でまかなって景気変動リスクに備えている。煩雑な規制と労働組合問題をクリアしなければ、JALやANAは世界スタンダードにますます乗り遅れることになる。

(「週刊ダイヤモンド」編集部 津本朋子)