「穏やかなデフレを過剰に恐れることは、多くの人が陥りやすい間違いだ」。金融政策史で著名なA・メルツァー・カーネギーメロン大学教授は、昨年秋にFRBがいわゆる“QE2”(量的緩和第2弾)を検討していた際に、そのスタンスを激しく批判した。「追加刺激というナンセンスな考えは捨てて、次のインフレを避けるための信頼されうる長期的プログラムを提示すべきだ」(「ウォールストリート・ジャーナル」10月19日)。

 その後生じた世界的なインフレの高進を受けて、メルツァー教授のFRB批判のトーンは最近一段と高まっている。FRBは、短期的なイベントに過剰に対応するが、国債大規模購入策の長期的な副作用は無視しているという。同教授は昨年秋以降の米国の経済指標の回復は、QE2がなくても起きていたと考えている。

 また、インフレと失業は逆相関にあるというフィリップス曲線は、よく信じられているほど安定的ではないという。インフレ率と失業率が同時に上昇した1970年代の米国がそうだし、昨年のスペインは失業率が20%なのに、インフレ率は上昇した。英国でも失業率が上昇を見せるなか、インフレ率はイングランド銀行の目標を遙かに上回って上昇中だ。米国だけが世界的なインフレから逃れられると期待することは誤りだという(前掲紙2月7日)。