中国が恐れる鴻海の「トランプ接近」と「米国逃亡」シャープの買収で日本でもお馴染みになった鴻海グループ総帥の郭台銘(テリー・ゴウ)氏  Photo by Masaki Nakamura

ソフトバンクと鴻海が共同で
米国に570億ドルの投資

 12月6日、ソフトバンクグループの孫正義社長がトランプ次期米大統領に直接会い、米国へ500億ドル投資すると表明したニュースは、中国でも大きく取り上げられた。ただし、重点は少し日本と違う。孫社長と共に語られるのは、台湾に本拠を構える鴻海(ホンハイ)グループであり、ソフトバンクと鴻海の両社が米国に工場を建設するというところに注目が集まっているのだ。

 孫社長がトランプ次期大統領に提示した共同投資の承諾書には「ソフトバンクと鴻海が今後4年間に米国本土で570億ドル(ソフトバンク500億ドル、鴻海70億ドル)を投資し、10万人の雇用を創出する」と書かれている。中国ではこの点がクローズアップされている。

 1年前、鴻海グループ総帥の郭台銘(テリー・ゴウ)会長は、「すでに30人ほどのグループが米国で視察、調査を進めており、鴻海の業務分野におけるAI(人工知能)技術の応用に関する準備をしている」と明らかにしたことがある。

 本当に鴻海が米国への投資に本腰を入れるとなると、中国は極めて深刻な危機感を持つべきであろう。

 多くの中国人の鴻海に対する認識はまだ「ローエンドの肉体労働者の工場」にとどまっており、そんなローエンド企業が中国を出ていったところで、中国経済はすぐさま「カゴの中の鳥を取り替えて、華麗にアップグレードできる」と考えている。

 しかし、彼らは鴻海こそが「中国の改革開放以来、工業化の最も手堅い成果」であることを知らない。さらに重要なのは、「鴻海がもし中国という土地でアップグレードを果たせないというのであれば、必ず中国の外で果たすだろう」ということである。

 全国民が「バブル転がし」をしているような今の中国の環境において、国内の実体産業で本当にアップグレードのチャンスがあるのは、鴻海のような蓄積があり、資源がある「従来型企業」であって、流行を追いかける「新興産業」ではない。