あなたが親と過ごせる時間は、もういくらもない?<br />今こそ父や母にしてあげたい「親孝行」の指南書

 あなたの親はいくつですか。1年に何回会っていますか?

 日本人の平均寿命(2009年)は男性79.59歳、女性86.44歳です。これに照らし合わせ、たとえば「うちの親も、あと10年は大丈夫」などと安心したかもしれません。

 しかし、親と遠く離れて別居している場合、1年のうちで親に会えるのはせいぜい数回ではないでしょうか。仮に年に5日は里帰りしているとすると、あなたが親に会えるのはあと10年ではなく、50回です。「年」ではなく「回」という単位のなかで、あなたは親に何をしてあげられますか。

「親孝行、したいときには親はなし」といいます。子も歳を重ね、かつての親の年齢に近づくにつれ、当時の親の気持がわかってきます。育ててくれた親に感謝の気持ちを返すという意味合いから、親が元気なうちにできる限りのことをしてあげたいと考える人は多いでしょう。

 もっとも、いざ親と面と向かうと、照れくさくてなかなか感謝の言葉を口にできなかったり、親が何を喜ぶのか見当がつかなかったりします。また、周りの人がどんな親孝行をしているか、どんな“メニュー”があるのかについても、意外に私たちは情報を持ち合わせていません。

 そこで、まず本特集ではさまざまな「親が死ぬまでにしたいこと」事例を紹介しました。“隣の親孝行”を覗く感覚でご覧ください。

 そして、35歳~55歳の子世代と、70代以上の親の合計1054人に、親孝行に対する意識・体験・考えなどについて調査しました。そこからは、意外なギャップが浮かび上がりました。

 たとえば、親にどんなことをしてあげたいか、子にどんなことをしてもらいたいか──。子のほうは、「あれもこれもとしてあげたいことを思いめぐらし、然るべきときには看病や介護をする覚悟も固めている一方、親のほうは子が元気でいて、堅実な暮らしをしていれば、それだけで満足というのが7割方の答えでした。

 その他、「親が子と話したい話題」「子が親と話したい話題」にもギャップがあります。これらのデータも、「あなたなりの親孝行」を見つけるときの参考にしてください。

 考えてみれば「親のため」とは結局、「自分のため」でもあります。子世代にとっては、親が認知症や寝たきりにならずに元気でいてくれることは、今の自分たちの生活を守るために重要なファクターです。1年でも長く親が元気でいてくれたら、子の平穏な暮らしも1年伸びるわけです。親の心身の健康を願い、そのために努力をすることは、子としてきわめて自然な動機といえます。

 また、全人口に占める65歳以上人口が23.1%となり、日本は超高齢化を迎えています。年金・医療・福祉など国の財政面に与える影響に加え、今後はあらゆる産業が高齢者を相手にした事業変革を求められます。

 この超高齢化社会で、ビジネスマンとして持つべき視点を教えてくれるのは他ならぬ老親たちです。高齢者問題やシニア市場の開拓といった政治や経済界の課題は、「自分の親のこと」に置き換えて考えることで理解も進むし、解決の糸口やビジネスのヒントが見えてくることもあるでしょう。

 つまり、老いた親のとの過ごし方を考え直すことは、「自分のため」であると同時に、「社会のため」にもなるのです。

 今号は、そんな観点から取り組んだ『週刊ダイヤモンド』としては異色の特集です。しかし、小誌の中心読者世代にとっては、避けては通れないテーマのはず。特に冒頭の“問い”から、この先親に会える残り回数の少なさに焦りを覚えたなら、必読です。

(『週刊ダイヤモンド』副編集長 深澤 献)