人・組織のマネジメントは、戦略目標の達成という企業の目的と、生活維持や自己実現などの個人の目的とをうまく適合させ、競争優位の源泉を築くことを目指している。人・組織のマネジメントを理解し身につけるには、人の特徴や行動のメカニズムについて把握する必要がある。

企業経営における
人・組織のマネジメントの役割

 企業の代表的な経営資源は「ヒト」「モノ」「カネ」である。かつては企業経営を考えるときに、「モノ」と「カネ」に重きが置かれることが多かった。しかし最近では、「これからは組織や人がより重要だ」「人のマネジメントが今後の企業経営の鍵だ」という声がよく聞かれる。その背景には、次の2つの理由が考えられる。

 第1に、企業が環境変化に対応するには、個々の「ヒト」の能力が必要であるからだ。これまでは経営陣など一部の個人が過去の経験を生かして意思決定をしてきたが、現在、企業が直面している環境変化は不確実でかつスピードが速い。そうした状況に柔軟に対応するには、より多くの個人が戦略目標を理解し、迅速かつ的確に意思決定できるような「ヒト」のマネジメントが不可欠である。

 第2に、企業の競争優位の源泉が、設備や資金などから、知識や知恵へとシフトしつつあるからだ。つまり、知識や知恵を生み出す「ヒト」をいかにうまくマネジメントするかが、競争優位を築き、維持するうえで重要になっている。

 人・組織のマネジメントは「合理的にとらえられないもの」と思われがちだが、実際には論理立てて考えられる部分も多い。人・組織のマネジメントを苦手とする企業やマネジャーが多いだけに、適切なマネジメントの方法や考え方を身につけられれば、企業の競争力を高めることにもつながる。本章では、人や組織に関する理解を深め、どのようにマネジメントを行えばよいのかを考えていく。

経営資源としての
人の特徴

 人・組織のマネジメントを習得するには、まずその対象となる「人」の特徴や行動について理解する必要がある。具体的には以下のポイントを認識しておこう。

●人には意思や感情、欲求がある

●人の能力は向上し、時には低下する。また能力の種類も変化する