本連載では、日本を代表する長寿企業のトップ4人――、ネスレ日本の高岡浩三社長JT(日本たばこ産業)の新貝康司副社長コマツの野路國夫会長富士フイルムHDの古森重隆会長を迎え、「時間軸の捉え方」「市場とのつながり」「組織の作り方」という3つの観点から問いを重ね、「長寿企業の秘訣」を探ってきた。

 最終回では、これまでの対談の中から長寿企業の秘訣を解き明かしていく。

 結論から先に述べると、長寿企業の秘訣とは以下の通りだ。

どうすれば100年生き抜く長寿企業になれるのか?

(1)時間軸の捉え方:10年先の長期的な時間軸を持つ

 長期的な時間軸を持つということは共通しつつも、その時間軸に込めた想いやその背景にあるものは四社四様の特徴があった。

●予測ではなく「意志」を持ち、未来に数字を刻む
 ネスレ日本の高岡浩三社長は「10年先にどうしたいか」という「意志」を持つこと、ゴールを定量的に数字で示すことが重要だと指摘する。製品ライフサイクルが短くなり、将来の見通しができない時代になっているからこそ、予測ではなく、確固たる「意志」を持つべきである。また、意志を持つだけでなく、「具体的に目指すべきゴール」を定量的な数字で示すことで、将来像の解像度を上げ、ゴールに向かってより早く前進することができる。

●過去の歴史を学ぶことで未来の洞察を得る
 コマツの野路國夫会長は、「コアビジネスが今後も全世界で成長する産業か」という視点で少なくとも10年、20年先を常に見ている。また、コマツで非常に特徴的なこととしては、戦略を立てる時には過去50年の歴史を振り返るということである。過去の歴史を見ることで、これからもコマツの歴史の中で変わらずに大事にすべきことと、変わっていくべきこととを見極め、当時の状況や判断を考えた上で、未来に向かって意思決定をする。

●社会的な存在意義から自社の方向性を描く
 JTの新貝康司副社長は事業の足元を見る時は10年先の未来を考え、会社全体を考える時は30年先の未来を見据えている。30年後の世界を思い描きながら、自社の社会的な存在意義を再定義する。単に考えるだけでなく、JTでは「将来、人間はどう生きるか」という分野へのリサーチにも投資をしている。このように未来に思いを馳せることと、将来のトレンド把握に対して投資すること、この両面を同時に行っていく必要がある。