ヤクザすら手にかけた埼玉愛犬家殺人事件の凄惨写真はイメージです
ヤクザすら手にかけた埼玉愛犬家殺人事件の凄惨『仁義の報復』
高田燿山
竹書房
235ページ
1600円(税別)

 1993年、埼玉県大里郡で起きた「埼玉県愛犬家殺人事件」。若い人は記憶がないかも知れないが、ペットショップを営む関根元と風間博子の夫妻(姓が異なるのは偽装離婚済み)が判明しているだけで客など4人を殺した事件は当時、世間を震撼させた。この事件を下敷きに、鬼才・園子温が映画『冷たい熱帯魚』を制作しているが実際の事件の残忍さはかなり抑えられている。

 80年代後半のバブル期、夫妻は空前のペットブームの波に乗り、高級犬の投機で成功。財をなしたが、バブル崩壊後には設備の投資や維持費が重くのしかかり、負債だけが残った。そうした中、彼らが生み出した「ビジネスモデル」はあまりにも卑劣だ。

 言葉巧みに、高級犬とはいえ、市価の100倍の値段で売り、その後に売り先の家に忍び込み、盗み出したり、殺したりしてしまう。顧客の悲しみにつけ込み、もう一度、ペットを売りつける。当然、気づく客もいるわけだが、ばれたら殺してしまう。死体を切り刻み、ぐつぐつに煮たり、自宅の庭に埋めたり。死体がないから事件は発覚しない。

気に入らないと
殺してしまえばいいという発想

 関根は「俺は30人は殺している。人間の寿命は俺が決める」と嘯くが、実際に相当の人間を手にかけているのだろう。本書『仁義の報復』を読めば分かるが、気に入らないと殺してしまえばよいという発想は常人には理解しがたい。

 この事件で特筆すべきは、被害者の4人の中にヤクザがいたことである。本書は腹心の子分を殺されたヤクザの元親分・高田耀山の回想記である。稲川会直参で会長秘書も務めていたヤクザの中のヤクザだ。

 突如として部下が姿を消すが、如何せん死体がないから事件化しない。苛立つ親分は独自の調査を始める。

 もちろん、捜査権限などないのだから手荒い。犯行仲間と思われるチンピラをさらって、関根との会話を盗聴させたり(これは後に重要な捜査資料になる)、関根を組事務所に呼び出して、「てめーがやったんだろう」と迫ったり。緊迫感が半端ない。殺してなくても「殺しました」って言いかねない。まあ、実際に殺しているんだが。