トランプの下で米国製造業が復活できない理由Photo by Keiko Hitomi

 トランプが大統領に就任して3週間が経ちました。この短い間にオバマケアの停止、TPP脱退、メキシコとの諍い、中東7ヵ国の国民の入国禁止など、矢継ぎ早に極端な政策が打ち出されたので、米国では世論をはじめあらゆるところが混乱を極めています。

 それはそれでワイドショー的には面白いのですが、トランプの経済政策の方向性が明確になりつつある中で、それでトランプが目指す製造業での雇用の維持・復活が実現できるのでしょうか。

トランプが長期的に雇用を
維持できない経済学的な理由

 この点について、米国や欧州の専門家・識者の論考をざっと概観したところ、だいたい見解は一致していました。「短期的にはある程度の成果を出せるだろうけど、長期的には逆に米国の製造業の競争力を弱めて雇用も減少させるだろう」となります。

 短期的に成果を期待できる理由は簡単で、トランプが目指す大規模な減税と公共事業が実現できれば、経済全体がさらに良くなるので、製造業にもプラスになるというものです。かつ、企業は自らのブランドや名声を維持したいので、トランプのツイッターで名指しで非難・恫喝されたら、工場の海外移転の凍結、国内での雇用の増加に取り組まざるを得ないという面も指摘されています。

 これに対して、長期的にはうまく行かないと考えられる根拠としては、大別して2つの考え方がありました。

 1つは、マクロ経済学のアプローチです。減税や財政拡大により財政赤字が拡大すれば、金利の上昇を招くので、当然ながら為替市場ではドル高が進むことが予想されます。ドル高は米国製造業の国際競争力の低下をもたらすので、雇用も長期的には増えるどころか減少するだろうというわけです。

 ちなみに、米国は1980年代のレーガン大統領の時代に、すでに同じことを経験しています。軍事支出の増大と減税により金利の上昇とドル高を招き、米国の雇用に占める製造業の割合は加速度的に減少を始めました。