『週刊ダイヤモンド』2月11日号の第1特集は「誰も触れなかった絶対格差 子会社『族』のリアル」です。待遇や立場で親会社に劣る子会社のプロパー社員、子会社出向を命じられた親会社社員、果ては転籍を余儀なくされた者……現場では日々、様々な悲哀を感じながら、「子会社」という器に関わり会社員生活を送る人々がいます。その実像を追いかけつつ、絶対格差が生まれる仕組みや「親子待遇格差」の実態、またグループ経営上の子会社論にまで踏み込み、会社員から就活中の学生まであらゆる関係者必読のコンテンツとしました。

“やりがいの搾取〟だ──。新卒で大手損害保険会社の子会社に入社した20代男性はそう不条理を叫ぶ。

 同じグループ企業で働くも月給は親会社の約7割、賞与は半分以下。親会社から出向中の社員と机を並べてほとんど同じ仕事をしているが、出向者は親会社の給与体系に基づく高待遇を享受する。子会社の社員(プロパー)が報われることはない。

 そんなとき、親会社の人々が待遇格差の隠れみのとして持ち出すのは「仕事のやりがい」という殺し文句だ。「子会社は現場の最前線を担う重要な存在」とうそぶき、士気を保とうとする。だが、待遇が改善されることはない。

 いろいろな働き方がある中、今日では非正規労働者の格差問題に世間の目が向いている。だが、前述のような歴然とした待遇格差があり、不遇をかこちながら全く日の目を見てこなかった人々がいる。その一群こそが「子会社族」だ。

 毎月の給料だけではない。年金から退職金、福利厚生や社内教育、果ては心理的な領域に至るまで、あらゆる面で子会社は親会社の下に位置付けられる存在──。そんな実態が半ば〝常識〟として、日本社会ではまかり通ってきた。

 冒頭の男性の会社は、約10年前に現在の親会社に買収、子会社化された。「選択と集中」の名の下、取引額の大きい法人顧客の〝お得意様〟を次々に親会社に奪われていき、今や「親玉に上流の金山を献上して、下流で砂金集めをやらされているような状態」という。

 親会社からの〝天下り〟役員は子会社を見下し、本社側の方法論を押し付けがち。一方でお上の親会社の意向をうかがうばかり、という「ヒラメ出向者」で溢れる。

 ある大手航空会社の子会社に勤めていた20代女性は「ステップアップの無理強いがあった」と訴える。若くして「現場責任者」と呼ぶ立場を任され、これは一見、出世の早道で〝名誉なこと〟にも映るが、給料は一切上がらない。

 子会社幹部は親会社からの出向者で占められ「ガラスの天井」が見えている。一方で責任とそれに伴う業務負担が増えても、待遇には全く反映されない。この子会社では構造的に、出世するメリットが見いだせない。だから入社後3年で半数の人が辞めていく。

 現場の不満を尋ねれば、子会社族の多くはせきを切ったように、こうした不幸な実態を口にする。

 周囲と数年違いで就職氷河期に直面し、早慶レベルでも大企業に内定できずに、子会社行きを余儀なくされた学生も珍しくない。

 そんな一群を生み出す子会社の基本的な定義は次の通りだ。ある会社(親会社)が議決権のある他社の株式の過半数(50%超)を保有する場合、この株を握られている方が子会社と位置付けられる。

 50%以下でも、「実質的な支配」の関係にあれば子会社となり、さらに傘下で同様の関係にあれば親会社から見て孫会社。議決権20~50%なら関連会社で、これらを総称してグループ企業と呼ぶ。

 サラリーマンなら誰もが関係し得る、子会社という存在。身近にありながら、実はその全貌をつかめる統計などはほとんどない。

 その中で比較的網羅性が高そうな経済産業省の「企業活動基本調査」によれば、従業員50人以上、資本金3000万円以上の製造業を中心とした日本企業(金融・建設業など除く)で見た場合、国内の子会社数は約5万社に上る。子会社といっても規模はさまざまだが、仮に中小企業と定義される1社当たりの従業員数300人以下(業種による)から推定すると、関係者は1000万人規模になる可能性もあり、裾野は極めて広い。

 企業再編が国内でも活発になっている中、ある日突然、籍を置く会社が買収されないとも限らない。そういう意味では、潜在的には全てのサラリーマンが「子会社族」予備軍だ。あなたも決して、その例外ではない。

 

■明かされる子会社族の声、発案者の思い

『週刊ダイヤモンド』2月11日号の第1特集は、「誰も触れなかった絶対格差 子会社『族』のリアル」です。

 この企画の出発点は、私自身の実体験にありました。かつていた会社は子会社で、貴重な経験を積ませて頂いた感謝の気持ちに溢れつつも、内部で働いてみると、プロパー社員の視点に立った時、待遇差をはじめ「子会社」という器には、一筋縄ではいかない問題が潜んでいると感じていました。日本中の子会社でも、同様の構図が溢れています。そうして、現場を支える子会社族が日々感じる悲哀、やるせなさや儚さ……これまで世間にはほとんど伝えられてこなかった声を丹念に集めていきました。

 実は、当初はそんなプロパー社員の目線から問題を捉えようと、特集タイトルとして「子会社族の『不幸』」が編集部内で有力案に挙がっていました。ですが、取材を進めていくと現場側か経営層か、またプロパーか出向者か、など関わる立場によってそれぞれの見方は全く違います。だからこそ「繊細な問題」などとして、サラリーマンなら半径3㍍以内に潜む極めて身近な問題でありながら、これまで置き去りにされてきた一群だったのでしょう。この特集を機に、あらゆる方々から関心を持ってもらうにはどうすればよいか――。そんな思いから、最終的に「子会社『族』のリアル」とのタイトルに至りました。

 過去に前例がなく、手探りで企画を進めていく中、取材班からも様々な意見が飛び出しました。時には編集部の先輩から、私が実体験に引きずられがちなだけに「視野が狭い!」といった叱責も。ただ印象的だったのは、企業や現場のビジネスマン、大学まで様々な関係者に取材をする中で、「子会社」という視点をぶつけると「自覚したことはなかったけれど、面白くて深みのある切り口だ」との見方を示す人が多かったことです。そうして議論を重ね、関係者の協力を得ながら、「若手覆面座談会」や「子会社族図鑑」、「恋愛専門家の子会社族指南」、1160人回答のアンケート「子会社観のリアル」、「親子待遇」80社のレーダーチャート比較、「プロパー部下のトリセツ」……子会社に関わる多様な人々や在り方にスポットを当てた、「週刊ダイヤモンド」でしか読めない充実したコンテンツが盛りだくさんとなりました。

 最後に、取材に協力して下さった方々に感謝を申し上げる次第です。現場の関係者からは、匿名を前提に多くの方に取材に応じて頂きました。「バレたらヤバい」。彼らが口にするように、特に子会社内で働くサラリーマンの立場は非常に弱いものです。経営者には、それでも声をあげてくれた子会社の人たちの思いを受け止めながら、企業グループの経営を舵取りしていってほしいものだと感じています。

(『週刊ダイヤモンド』記者 竹田幸平)