大震災で円高になるという
「パブロフの犬」論

 まず、東日本大震災で被災された方々には、この場をお借りして心からお見舞い申しあげたい。

 3月11日に発生した東日本巨大地震を受けて、海外の市場参加者から「1995年1月に起きた阪神淡路大震災と同様に円高トレンドが強まるのではないか」「日本が資金繰りの観点から米国債の売却圧力を強めるのではないか」との問い合わせを多くいただいた。

 1995年の阪神淡路大震災後の局面においても、保険会社を中心としたレパトリの思惑が生じたが、支払い金額については当初の想定よりも小さなものとなった。震災の発生直後には、被害総額を見積もることが難しく、様々な憶測が生じやすい。

 また、大震災が起きると「パブロフの犬」のごとく、条件反射的に円高と思うようなバイアスが海外投資家にはあるように見えた。

 実際には、3月11日以降、日本からの海外債券の売り越しは確認されなかった。また、16年前の阪神大震災の直後も実際に日本の投資家による海外資産売却は限られた。

 筆者の見解では、米国サイドに由来するドル安バイアスは残存するが、今回、円の独歩高が生じるとは考えていない。むしろ、米国の金融政策のエクジット観測で夏場まで80円台半ばまでのドルの戻しも生じやすいと考えている。

 ただし95年の連想で、海外の市場参加者が「日本の投資家が資産売却を行なうと考える背景に何があるか」を考察する必要がある。同時に、過去16年にわたり、日本の経済や金融環境にどのような変化があったかを振り返る必要もある。