3月11日に東日本大震災が発生するまで、日本は食のトレンド情報に溢れていた。365日メディアを通じて「食の流行りネタ」が流されている国も稀有であろう。行列のできる店や流行りそうな店の新情報は敢えて求めずとも目に入り、不自由しない状況に消費者は慣れきっていたはずだ。トレンドによって日々のメニューを決める人や、グルメサイトの口コミに店の選択を頼る人も少なくなかった。だが震災後、食にまつわる情報の方向性は一変。毎日のように流れされていたトレンド情報は、影をひそめてしまっている。

 現在、震災から1ヵ月が過ぎたが、その間東京を始めとした首都圏の外食産業、そして消費者の外食に対する動向はどう変化したのか。この1ヵ月の外食各社・各店の様子を時系列で追い、分析しながら、災害に強い外食の姿を探っていきたい。

震災に「弱い小売」と「強い外食」
両者の明暗を分けたものとは?

 震災翌日の3月12日、私は講師をしている大学の卒業謝恩会があり新宿へ向かった。計画停電もなく、私が利用する都内交通に支障はなかったが、余震への不安感で外出を控える人も多かった。震災の被害を考えると謝恩会の出席に躊躇もあったが、学生の一生に1度の門出を祝ってあげたいと思い、出掛けた。ネオンも変わりなく照らされ、店の呼び込みも活発で、まだ自粛ムードが繁華街全体を覆ってはいなかった。

 震災から1週間。コンビニやスーパーをはじめとした小売の多くは、東北地方に工場を持つ取引先企業等の影響を即座に受け、品薄状態を招いてしまっていた。しかし、それに対して通常とほぼ変わらないメニューアイテムを保つことができていたのが外食(業界)だ。ファーストフード・ハンバーガー各店や大手居酒屋チェーンのワタミフードサービス、牛丼などを展開する吉野家ホールディングスなども、発注した食材をほぼ通常通り店に届けられたといい、メニューアイテムを殆ど変えず営業ができていた。変更せざるを得ないものに関しては、代替として「特別応援メニュー」などの新メニューを設けて対応することで乗り切った店も多い。

 震災直後、外食がほぼ平常通りに食材を手に入れられた背景には、一体どのような理由があったのだろうか。まず大手外食チェーンは、全国数拠点に自社工場を持っているうえ、メニュー商材のストックを倉庫に充分に確保している点が挙げられる。