昨年11月、ニコンは2018年3月期を最終年度とした中期経営計画を破棄、抜本的な経営改革を行うと発表した。半導体露光装置とカメラの2本柱が同時に揺らぐ危機的状況をどう乗り切るか。 (「週刊ダイヤモンド」編集部 鈴木洋子)

「キャッチアップではなくギブアップだ」。2016年秋、経営会議での岡昌志・ニコン副社長の言葉に、ある役員は会議テーブルの下で椅子を蹴りそうになるのを懸命に抑えた。

「諦める」のは半導体露光装置首位のオランダASMLとのシェア競争のこと。1990年代以前には世界の半導体露光装置市場を寡占していたニコンだが、現在のシェアはASMLの約8割に対しわずか1割程度。“失地回復”は悲願であったが、もはやそれはかなわない、と認めたのだ。

 かつての半導体露光装置の寡占企業、そして一眼レフカメラで世界シェアの半分を持つ精密機器業界の雄、ニコンが揺れている。16年11月に中期経営計画の「破棄」を発表し、半導体装置事業部門での希望退職者募集に踏み切った。

 17年2月にはデジタルカメラの販売不振により3回目の業績下方修正を発表(図(1))。同時に、部品の不具合で発売を延期していた高級コンパクトデジタルカメラ、DLシリーズの発売中止も明らかにした。ニコンが発売を発表した製品を取り下げるのは初めてだ。戦略商品のアクションカメラ「キーミッション」も「スマートフォンとの接続性が悪いなどの問題で計画の半分程度の売り上げにとどまった」(牛田一雄社長)。事業の柱が2本とも揺らいでいる。

 財務にも苦境がにじむ。ニコンの売上高は約70%が映像(カメラ)事業、約20%が精機(半導体・FPD露光装置)事業で構成される。営業利益では、映像事業が毎年500億円前後の利益を上げているものの、連結営業利益のグラフはでこぼこで毎年上下している(図(2))。それは精機事業の振れ幅が大きいからだ。背景には、先端の半導体露光装置の製品販売の特殊性がある。