北九州市の新成長戦略の現場を検証する連載14回目からは、さまざまな「北九州スタイル」のアジアへの輸出を見ていく。まずは「アジア低炭素化センター」だ。“アジ低”と呼ばれる同センターは、環境問題解決のためのシステムを海外へ送り出し、アジアの低炭素化実現に向けて市が積極支援するためにつくられたもの。公害克服の経験から生み出された高い環境技術やノウハウをアジア地域へ輸出し環境ビジネスに携わる北九州市内企業の海外進出を強力に支援する。アジア地域と、市内企業をつなぐコーディネーターの役割を果たしている。

インドネシア スラバヤ市での会議の様子

 東南アジアの、とある自治体の会議室。現地の職員たちとテーブルを挟んで議題をリードするのは、北九州市の「アジア低炭素化センター」(アジ低)の担当者だ。現地語であいさつを交わし、和やかな雰囲気をつくりながら、実務的な工程を確認していく。日本側のメンバーは、環境ビジネスに携わる北九州市の民間企業数社。現地での実証試験をスムーズに進行するため、アジ低は“チーム北九州”を束ね、引っ張る存在として最前線で活動している。

環境技術をビジネス
ベースで根付かせる

 アジアの低炭素化を推進するため、北九州市環境局が「アジア低炭素化センター」を開設したのは2010年6月。目標として掲げるのは、50年に市内のCO2排出を05年度比50%、アジア地域で150%削減すること。「アジアの低炭素革命」の拠点である。

 その背景にあるのは、公害克服の経験とノウハウ、優れた環境技術と社会システムの集積、そして長年にわたる環境国際協力を通じたアジア諸都市との緊密なネットワークの存在だ。これらの資源を活用し、新しいビジネスの創造と可能性を見いだしていく。

インドネシア スラバヤ市のゴミ処理の様子

 アジ低の役割はもう一つ、環境ビジネスに携わる市内中小企業の海外展開を支援することで、地域経済の活性化を図ること。

 「これまで北九州市は国際協力を通じて、アジアの環境に貢献してきましたが、“協力”では資金の限度があります。私たちが目指すのは、日本企業の環境技術をビジネスベースで海外に根付かせ、持続的な活動ができるように支援していくことなのです」と語るのは、アジ低事業化支援係。

 環境問題はインフラに関わることが多く、行政が窓口となる。現地の行政とネットワークを持つ北九州市(アジ低)が橋渡しをすることで、海外事業実績のない中小企業でも交渉のテーブルに着くことができるのだ。相手国のメリットを生かしながらニーズを捉えてビジネスの芽を見いだし、市内企業に声を掛ける例もあれば、企業から海外展開の相談を受けるケースもある。企業が経済産業省や環境省、外務省など国の資金を取得する段階から支援し、FS調査(事業可能性調査)→実証→事業化のステップを踏んでいく。