企業の最大の役割は経済にかかわる<br />「エントロピーの法則」を打ち破ることにあるダイヤモンド社刊
1890円(税込)

「必要な新知識を知り、そのもたらす影響を考え、新技術、新製品、新プロセスに変えることが企業の役割である」(『テクノロジストの条件』)

 かのニュートン力学でさえ、アインシュタイン以降は相対性理論の特殊ケースの地位に甘んじることとなった。その相対性理論も、それを超える理論の可能性を否定できないとされている。

 ところが、熱力学の二つの法則、エネルギー保存の法則とエントロピーの法則だけは、不朽である。

 エネルギー保存の法則は、宇宙における物質とエネルギーの総和は一定であるとする。一方で、エントロピーの法則は、物質とエネルギーは混沌と荒廃に向かってのみ変化していくとする。

 ドラッカーは、人の手になるあらゆるものが、このエントロピーの法則を逃れえないという。製品とサービス、プロセスとチャネル、制度と政策のすべてが、出来上がった瞬間に陳腐化を始める。

 しかも、デカルト以降のモダン(近代合理主義)が暗黙の了解とした必然の進歩など、どこにも存在しないことが明らかになった。
したがって、経済にかかわるエントロピーの法則に打ち勝つことこそが企業の役割となる。それがイノベーションである。

「いかなる経済といえども、放置しておくならば、資本の生産性は確実に逓減に向かっていく。これを防ぐ唯一の方法、すなわち不毛の硬直化を防ぐ唯一の方法が、企業家精神による資本の生産性の不断の向上である」(『テクノロジストの条件』)