震災から2ヵ月で通常操業に<br />住友金属 早期復旧の理由岸壁に乗り上げた原料船により、巨大クレーン3基がなぎ倒された

 東日本大震災によって、深刻な被害を受けた住友金属工業だが、早ければ5月中旬にも、震災前の水準にまで復旧する見込みだ。

 地震、津波被害に遭ったのは、同社の粗鋼生産量の約6割を占める鹿島製鉄所(茨城県鹿嶋市)。コークスを作る際に派生するガスの貯蔵タンク(コークス炉ガスホルダー)が爆発、炎上。岸壁周辺の地盤は大きく沈下し、さらに津波によって係留中の原料船が岸壁に乗り上げ、高さ30メートルの巨大クレーン3基をなぎ倒した。

 すべての設備を元通りにするには1年半を要するものの、代替設備の利用で、すでに粗鋼生産量は通常の8~9割に回復している。

 わずか2ヵ月で通常操業にこぎ着けたのには、いくつかの理由があった。

 一つは人的被害がゼロだったことだ。震災時、約3000人が製鉄所内にいたが、けが人は1人も出なかった。その背景には、毎年の防災訓練があった。かつて2003年10月、ダウンバーストと呼ばれる強烈な突風によりクレーンが倒壊。作業員1人が死亡する事故が起きた。以来、毎年10月には、事前にシナリオを伝えずに防災訓練を行ってきた。予測不能な状況での訓練を積み重ねたことで、今回も「皆の行動がスムーズにできた」(柳川欽也・鹿島製鉄所所長)。

 もう一つの理由は、新日本製鐵による協力である。新日鉄の協力会社などから100人強の作業員が鹿島で復旧作業に当たった。また、半製品を供給してもらうなど、「全面的なバックアップをしてもらった」(同)。

 しかし、早期復旧を喜んでばかりもいられない。

 鹿島の復旧費などで620億円の特別損失を出した結果、国内高炉5社で住金のみが前期最終赤字に転落。前々期に続き、2期連続赤字となった。今後も設備復旧などに約1000億円がかかる。

 新日鉄との合併は12年10月。震災による財務状況の悪化で、統合比率を含めた合併交渉の綱引きに、少なからぬ影響がありそうだ。

(「週刊ダイヤモンド」編集部 松本裕樹)

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