パソコン(PC)の価格競争が“新次元”に突入している。

 今年1月下旬、台湾PCメーカーの華碩電脳(ASUS)が日本で発売したノートPC「EeePC」は、なんと4万9800円。液晶画面は7インチと小さいが、無線LANやウェブカメラを搭載するなど、ネットワーク機能は揃っている。わずか3日で初回入荷分の1万台を完売、その後も生産が追いつかない状態が続いており、「品薄状態は6月頃まで続く見込み」(ASUS広報)だ。

 同社では、昨年10月から米国や台湾、中国などでEeePCの販売を開始。米国では299ドルという衝撃的な価格でクリスマス商戦の台風の目となった。2007年第4四半期(10~12月)の同モデルの世界累計販売台数は38万台を突破し、同時期のノートPCの出荷台数シェアでソニーに次ぐ8位につけ、前年同期比50%増の高成長を続けている(米ディスプレイサーチ調べ)。

 ASUSの躍進を目の当たりにして、トップメーカーも動き始めた。業界首位の米ヒューレット・パッカード(HP)は、価格は定かではないが、「ウルトラローエンドのラインナップを検討している」(業界関係者)模様だ。台湾エイサーも、低価格ノートPC市場への参入が囁かれている。

 そもそもEeePCは、新興国の低所得層をターゲットに想定していた。ところがフタを開けてみると、北米や欧州など先進国のビジネスマンの2台目、3台目のマシンとして人気を博した経緯がある。「500ドル以下の低価格ノートPC市場は、2008年には1000万台前後まで広がる」(氷室英利・ディスプレイサーチディレクター)と見られており、新たな成長市場として注目されている。

 ただし、低価格ノートPC市場で稼ぐには、そうとうのコスト競争力が必要になる。ASUSはPCのマザーボードで世界屈指のメーカーであり、コストの2割強を占めるマザーボードを内製している強みがある。HPやエイサーには、規模のメリットがある。そのどちらもないメーカーは、収益重視で参入を見合わせるか、出血覚悟でシェアを取りにいくかの選択を迫られることになる。

 今後、先進国の2台目需要に加えて、当初の想定どおり新興国の低所得層を掘り起こすことができれば、この市場は急拡大するだろう。低価格ノートPCは、業界勢力図を塗り替える可能性も秘めている。

(『週刊ダイヤモンド』編集部 前田剛)