英語メディアが伝える「JAPAN」なニュースをご紹介するこのコラム、今週は日本の政局についてです。今のような危機下に政局をやっている一部の政治家や政治報道、および、今のような危機下にありながら国民に向かってじっくり語ることをしない大物政治家たちについてです。
(gooニュース 加藤祐子)

天変地異は起きた、さて……

 先週のコラムでは、「震災後の日本はどう変わるか、変われるのか、こう変わったらいいのではないか」と問いかけたり提言したりする英語メディアの記事をご紹介しました。「日本が変わるには天変地異ほどの一大事が必要だと言われていた。本当に天変地異が起きた今、日本は変わるのか世界が見ている」という米投資銀行幹部の意見も。

 私が英語報道をみていて、あるいは日本に好意的な外国人たちと話をしていて思うに、彼らのもっぱらの関心はここにあります。日本は歴史的な出来事に見舞われた、では日本に歴史的な変化が起きるのだろうかと。けれども国会中継を見ていても、国内の政治報道を見ていても、大半の時間や紙面を割かれているのは誰が言った言わないの問答や、内閣不信任案を出す出さないの悶着。

 ……この期に及んでもやることは政局と権力闘争なのかと、溜め息が出ます。なんだったら、国会をどこか被災地内の建物内に臨時に移して、そこで今の国会審議をしたらどういう議論になるのかと思ったりもします。国の未来を設計するグランドデザインの議論ができないなら、にもかかわらず不信任案を作って票集めをしている時間があるなら、税金で報酬を得ている議員ひとりひとりが、被災地でヘドロをさらったり瓦礫を取り除いたり物資を運んだり、福島第一原発で作業する人たちにおいしい食事を運んだり、原発20キロ圏内に残された動物を救出したりする方が、まだ国の為になるのではないでしょうか……と、つい感情的にもなります(実際に行動している議員も入るでしょうから、そういう人には感謝と謝罪を)。

 そんな中、フランス・ドービルでのG8など欧州訪問直前に菅直人首相が英『フィナンシャル・タイムズ』の単独インタビューを受けました。日本語訳はこちらと、こちらです。

 首相は、東北をバイオマスや風力など自然エネルギーの一大生産拠点にしたいと述べ、再生可能エネルギーへの注力、持続可能なコミュニティづくりなどを提言。日本は今後「進歩を電力消費の増大と結びつけない、足るを知る社会」になるべきだと言っています。対してFTは首相が民主党内からも厳しく批判されていることに触れ、「昨年6月に首相になったばかりの菅首相はすでに『レームダック』だという推測が高まっている。しかし、欧州各地で今週開かれる様々な首脳会談において、自分は日本の総理大臣回転扉の次の犠牲者になったりしないとどうやって各国首脳を説得するつもりなのかと質問しても、菅首相は特に悲観する様子もなかった」と。

 この首相インタビューは震災後、単独のインタビューとしては初だったそうです。小泉元首相以来、ほとんどの歴代首相の単独インタビューを必ずとってきた『フィナンシャル・タイムズ』としては、またしても手柄ということになるのでしょう(在任期間が短いので、早業が要求されますし)。しかし逆に私は、震災以降、首相がじっくりメディアのインタビューを受けてこなかったことの方が問題だと思いました。オバマ政権発足当初、大統領がテレビで国民に向かってじっくり語ることを怠り、それもあって医療保険改革への理解が浸透せず大騒ぎになったのを思い出しました。その後、反省したのか大統領はことあるごとにテレビ出演を繰り返し、先日のビンラディン殺害でもすぐにCBS「60ミニッツ」のロングインタビューをじっくり受けています。国のトップがそうやって、記者会見の壇上からではなく、記者と同じ目線で座って、足を組んだりしながら自分の言葉で、落ち着いた口調でじっくり語るというのは、上手にできればとても効果的です。民主・共和を問わずアメリカの歴代トップがそうやって国民に語りかける姿を見慣れてしまったからか、大震災という危機の中でそれをやらない国のトップが支持率30%前後しかとれないなんて、そんなの当たり前じゃないかと思います。

 話を戻します。いずれにしても、内閣不信任案が俎上に載っている菅首相が、27日ドービルで記者会見し、「いろいろな野党からの動きもあるようだが、我が党としてしっかりまとまって行動できるものと信じている」と述べたことは、『ダウ・ジョーンズ』や、『ブルームバーグ』などが伝えました。

 30日付ではロイター通信が、同日報道された日本経済新聞の世論調査を引用。菅首相が「できるだけ早く交代すべきだ」という意見は21%、「震災・原発対応が一段落したら交代すべきだ」は49%という結果についてロイターは、「日本の有権者の圧倒多数は菅首相の交代を望んでいるが、半数近くは原発危機の最悪な事態を乗り切るまで留まってほしいと思っている」と書いています。

 同記事はさらに内閣不信任案について、成立すると思う人は「ほとんどいないが、与党・民主党の相当数の議員が支持する可能性もある」と予測。その上で、「急速な高齢化に対処し、ふくれあがる債務を抑制し、経済成長を加速させるために必要な税制改革など、日本に必要な様々な改革の実行を妨げる、political bickering(政治家同士の罵り合い、口喧嘩、もめごと)が終わると思う人も、ほとんどいない」と。

 ……まさに。「political bickering」は「政治論争」と訳すのが通常かもしれませんが、それではニュアンスが伝わりません。「ビッカリング」という音、特に「ビッ」を強く吐き出すように言ってみてください。何ともへきえきとした、「ああ唾棄すべきことだ」的な音が口から出たのでは? 日本語で「くっだらない」と言うときに「くっ」や「ら」を強く言うと、いかにも表現豊かな語感になるのと似ています。

 ロイター記事はその上で日本大学法学部の岩井奉信教授に取材。内閣不信任案は政策とは何の関係もないゲームだ。菅首相は良くないが今はそんなことをやっている場合ではないと考える有権者と、大きなギャップがある——という見解を載せています。

 本当に。

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