営業キャッシュフローがマイナスの会社は買ってはダメなのか? 人気投資ブロガーで、『運、タイミング、テクニックに頼らない! 最強のファンダメンタル株式投資法』を出版したv-com2(ブイコムツー)さんが解説する、投資家が知っておくべきキャッシュフローの基本。

難易度が高い!?
キャッシュフロー計算書

 貸借対照表や損益計算書はわかる…という人でも、キャッシュフロー計算書となると、お手上げという声をよく聞きます。
 私自身も、おおむね理解したと思えるまでに、かなりの時間がかかりました。

 キャッシュフロー計算書で最初につまずくのは、「利益とキャッシュは違うもの」という概念でしょう。

 たとえば、ある企業の当期純利益が100億円だったとします。投資初心者は、ここで、

 企業が100億円儲かった=企業が保有する現金が100億円増えた

 と直感的に思うのではないでしょうか?

 しかし、実際はそうではありません。会計上の利益と現金の増減には、ギャップが出てくるからです。

 そう言われても、なかなかイメージできないと思うので、そういう時は身近な例で考えてみましょう。
 よくあるボーナス払いで考えてみます。

 1月に家電量販店で50万円の買い物をしたけれど、夏のボーナス一括払いを選択したなどという経験がある人は多いのではないでしょうか? 非常に便利な制度ですよね。

 けれど、家電量販店側の立場で考えるとどうでしょう?
 売上は1月に50万円計上されたけれど、実際の入金は7月~8月くらいまで待たなければなりません。
 3月決算の企業の場合は3月時点の決算を出さなければなりませんから、この取引に関しては50万円分の売上(と費用を差し引いた利益)が計上されますが、3月時点ではキャッシュはまだ獲得できていないわけです。

 これが、会計上の利益と現金自体の増減が一致しないイメージです。
 実は、ボーナス払いは、企業が入金を先延ばしにするという負担をしてくれている(不利な取引をしている)からこそ、利用者は恩恵を受けられるわけですね。

 このようにして、身近な例で一度理解してしまえば、あとは、「ボーナス払いに限らず、同じように入金が遅くなるような不利な取引って、いろいろあるんだろうな…」と想像を膨らませることができます。

営業キャッシュフローが
マイナスになるさまざまな理由

 キャッシュフロー計算書でよく言われことに、

 利益が出ているのに、営業キャッシュフローがマイナスの銘柄は危険

 というのがあります。
 前述のボーナス払いのように、入金が後というような不利な取引がたくさん増えすぎると、利益が出ているのに営業キャッシュフローがマイナスになることがあるのです。

 これは、投資家としては基本的には望ましい状態ではありません。
 入金があまりにも遅いと、もしかしたら取引先の経営が悪化中で、入金してくれない(貸倒れリスク)のかもしれないし、売上自体が架空なのかもしれない(粉飾決算のリスク)ということもあり、一般的には営業キャッシュフローがマイナスなのは、危険な兆候というのは正しいわけです。

 ただし、正常なビジネスを行っているのに、営業キャッシュフローが抑制されることもあります。
 たとえば、要因としては以下があります。

・先に多額の仕入れが必要なビジネスモデル
→成長中の不動産業のキャッシュフローを数年見ていれば自然とわかります。
 リース業も類似しています。私の本『運、タイミング、テクニックに頼らない! 最強のファンダメンタル株式投資法』の中では事例をあげて解説しました。

・決算日が金融機関の休日だったことによる影響
→これは本の中に書いていませんが、意外と頻繁に登場する項目です。金融機関が休日の場合には債権債務の決済ができないため、一時的にキャッシュフローに大きく影響する場合があります。
 この理由から営業キャッシュフローが大きくマイナスになっても、経営に問題が生じてるわけではありません。

 「金融機関の休日 有価証券報告書」で検索してみると、サッポロドラッグストアーの直近の有価証券報告書が出てきますが、中身をていねいに見て行くと、「第34期の営業活動によるキャッシュ・フローが大幅に減少しているのは、主として第33期の末日が金融機関の休日であったため、支払が繰越された仕入等の債務が決済されたことによるものであります」という記載があります。

 この記載がよくわからなかったとしても、曜日の関係でそういうことが起こりうるんだな、企業もきちんと説明しているんだなと知っていれば、今後、同じような場面でヘンに惑わされずに済むかと思います。

・前年度の(法人税法上の)利益が大きく、当期の法人税の支払いが大きかった
法人税の支払いは、営業キャッシュフローから差し引かれます。
 また、企業の損益計算書に計上される利益と、法人税法上の利益(所得)の計算にはズレが生じるというのは会計の本などにもよく出てくる話です。
 そのため、たまたま当期の法人税の支払い額が大きいと、営業キャッシュフローが出ていないように見えることがあります。

・分割払いでの売上が多額にあった(売掛金の増加)
→売上は計上されるが、キャッシュが入ってくるのは後ということで、本質はボーナス払いの例と同じですね。

・在庫を一時的に大きく増やした(棚卸資産の増加)
→何らかのキャンペーンやセールをやる目的で、在庫(棚卸資産)が一時的に大きく増加すると、仕入れのためにキャッシュが出て行きますから、営業キャッシュフローにはマイナスの影響を与えます。

 このように、営業キャッシュフローが減る(一時的)要因には、ある程度パターンがあります。
 そのパターンにあてはまっているのであれば、営業キャッシュフローが急減していたり、一時的にマイナスになっていたとしても、特に問題ないという場合がたびたびあります。

 疑問に思ったら、企業のIRに尋ねるなどして、説明に矛盾がないか確かめるといいと思います。
 納得できる理由があるとわかれば、せっかくの有望な投資先を逃さずにすむかもしれません。

 ただ、これはケースバイケースでもあり、売掛金や棚卸資産の急増は、時には粉飾決算につながる危険なシグナルであることもあります。
 したがって、分析に自信がないのであれば、あえて営業キャッシュフローが悪く見える会社を買わないというのも1つの選択です。

 大事なことは、キャッシュフローとはどういうものなのか、普段から理解に努めた上で、実際のキャッシュフロー計算書を見ていくことです。
 すると、だんだん気づきが増えてきて、投資機会の発見につながります。

 私の本では、キャッシュフローの全体像を示したうえで、他の本にはあまり書かれていないキャッシュフローの着眼点を示していますので、もしキャッシュフローに興味が出てきたら読んでいただければ嬉しく思います。