小売店が嫌う「トイレ」の脇を狙うのは、
家賃が安いという理由だけか

「1日だけ幸せになりたいなら、床屋に行け」というイギリスの諺があります。確かに床屋に行くとすっきりして、ちょっとした気分転換になります。そんな床屋ですが、近年よく目にするのが「10分、1000円、カットのみ」のチェーン店「QBハウス」です。QBハウスは、人の集まるところにたくさんの店を出していますが、特に力を入れて出店している場所があります。それは、駅や地下街、ショッピングセンターの“トイレの脇”です。

 普通、駅や地下街、ショッピングセンターで好まれる出店場所は、人通りの多い入り口付近や、乗り降りで人が集まるエスカレーターの近くです。トイレは通常奥まった場所にあって目立ちませんし、その脇は清潔感を重視した床屋や飲食店が好んで出店する場所ではありません。ところがQBハウスでは、逆にそんな場所への出店は大歓迎。なぜだかお分かりになりますか? まず一つは家賃が比較的安いという理由があります。それにもう一つ大きな理由があります。さて何でしょうか。

 それはトイレに必ずある、あるものがポイントになっています。答えは“鏡”です。誰しもトイレで用を足したら手を洗いますが、そのときに鏡を見て、「ちょっと髪が伸びたかな。そういえば隣に10分で済む床屋があったな。10分だったら時間的に大丈夫だからついでに切っていこう」という人が結構出てくるというわけです。人の行動と心理を読んで、上手にビジネスに活かしていると言っていいでしょう。

 QBハウスは、これ以外にも従来の床屋の発想を覆したさまざまな工夫をこらし、理髪店チェーンとしてナンバーワンの地位を獲得し、しっかりと消費者に定着しています。今回は、そのQBハウスの戦略を“期待値と顧客満足度”の観点から解説します。