「100万部を目指す」と動き出した「もしドラ」プロジェクト。しかし、100万部は通過点で、いまや260万部を超えました。編集者の仕事はマーケティング一色に。最終回の今回では、「もしドラ」マーケティングの全容を語ってもらいます。

「もしドラ」の「顧客の定義」は
読者、書店、メディアの3者なんです。

――100万部に超えたのが2010年7月、年末の12月には200万部突破。ここまで順調に進んだ要因は?

加藤 100万部超えてからもマーケティングの手は緩めなかったです。前回お話したように、顧客のセグメント毎にいつ何をやるかという工程表を作り、プロジェクトチームのメンバーでマーケティングプランを実施していきました。年末は、その年の本の売れ行きの年間ランキングが発表されますよね。「もしドラ」が年間ベストセラーで1位になったんですが、そのおかげでまた報道が多くなり、その「売れている」という報道自体がさらなる「売れ」につながるという循環がうまく回りました。また、著者の岩崎さんが、NHK紅白歌合戦の審査員として出演されたのも大きかったですね。

 あと、じつは「もしドラ」という言葉を流行語大賞にしようという話もありました。調べてみると、毎年9月くらいにメディア露出の多いものが選ばれやすいということがわかったので、その時期にはとくに重点的に露出させるようにしていたんですよ。けっこう本気で、流行語大賞を狙いました。結果的に大賞こそ逃しましたが、その年の流行語の候補としてはノミネートされて、たくさん報道されたのでよかったと思っています。

『もしドラ』(その4)<br />どうやってマーケティングするか。その答えは、<br />すべて「もしドラ」に書いてありました。掲載されたメディアや「活用事例」などを収集したファイル。日に日にボリュームが増えていく。

――ここまでメディアに紹介された要因は?

加藤 これは半分、「後づけ」でもあるんですが、「もしドラ」のマーケティングは、まさに「もしドラ」に書いてある「顧客の定義」を明確にしたことがよかったのかなと思っています。

 普通に考えると、本の「顧客」って、読者ですよね? でも出版社からみると、書店さんも顧客だったりします。そして「もしドラ」ではさらに広げて、メディアも顧客として考えるようにしました。『マネジメント』的に言うと、①読者、②書店、③メディアの3者を「もしドラ」の顧客だと定義したわけですね。

――普通は、読者、書店までしか発想していないよね。

加藤 そうかもしれないですね。これは僕自身が、前の会社で雑誌の編集をしていた経験から思っていたことなんですよ。

 僕は月刊誌で書評欄を担当していた経験があるんですが、毎月、ページのスペースを埋めるのが大変なんですよ。一方で、載せてほしい本は毎日送られて来ます。でもそれについてくるリリース(内容紹介)は、売り手の発想で書かれたものが多いんですよ。一方的に「こんなふうにすごい本です」くらいしか書いていない。そのままでは僕らが編集している雑誌の原稿としては使えないんですね。

 だから僕は自分が本を作るようになってからは、雑誌や新聞に献本する際には、担当のひとがそのまま書き写して原稿にできるように考えた内容紹介文を添えるようにしています。具体的には、内容紹介の文章をパーツ化して、編集者が必要な字数に合わせてコピペで原稿を作れるように考えて書くわけです。