生活必需品の“塩”が、今月、「かつてない大幅な値上がり」(大手製塩会社関係者)を見せている。醤油や味噌といった加工食品などに使われる食用塩(業務用塩)だ。

 大手製塩会社、ダイヤソルトは7月から、1キログラム当たり3~9円の卸価格値上げを決めた。同社の値上げは2008年以来で、卸価格を一気に約3割引き上げた。また、他の国内製塩各社や、海外から塩を輸入する商社も軒並み同程度の値上げに踏み切る方針だ。

 塩を管轄する財務省は「国内の需給は均衡している」と言うが、製塩会社や業界関係者は「これまでになくタイトな状況」と話す。

 最大の原因は、東日本大震災と福島第1原発事故の長期化にある。

 国内の大規模製塩工場は、ダイヤソルトなど4社の6工場のみ。その6工場が業務用塩の国内需要量(年間120万トン)のほぼすべてを賄う。うち5工場が西日本に集中し、製塩最大手、日本海水の小名浜工場だけが、福島県いわき市にある。需要量の2割以上に当たる年間26万トンの製塩能力を持つこの東日本唯一の工場が、震災と原発事故により操業できず、供給を一気に引き締めているのだ。

 不運も重なった。「例年3、4月は、東北地方の融雪作業に塩を使い切る時期で在庫もなかった」(前出の製塩会社関係者)。

 そのため、小名浜工場の穴を埋めるべく、急激な増産を余儀なくされた残る工場の生産コスト増が、今回の値上げの理由だ。

 食品メーカー、キッコーマンは「製品価格への転嫁は予定していない」と言うが、出口の見えない原発事故の余波が、また一つ思わぬ悪影響を生んだことは間違いない。

(「週刊ダイヤモンド」編集部 宮原啓彰)

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