ドル円相場は5月後半以降、どの材料も決め手を欠き、110円近くで一進一退を続けた。ただし、米国の景気堅調を背景にした金利上昇がドル円の方向を決めるとの基本観は変わらない。

 米景気が今後どう浮揚し得るかは、減税など財政刺激策の規模とタイミング次第。トランプ政権発足以来の議会との関係を見る限り、政策発動が公約通り一気に進む目はほぼ消えた。

 その分、諸施策が分散され、今年・来年の経済成長は2%台半ばと緩やかなものになるだろうと、予想を修正した。ほぼ完全雇用の米国で巡航ペースを超える成長が続くなら、FRB(米連邦準備制度理事会)は今年のもう2回の利上げと保有資産縮小、来年の数回の利上げへ向かおう。この場合、ドル円が今年後半に115円超の水準を回復し、来年には120円台をうかがう可能性が維持される。

 今後数カ月、ドル円相場には米長期金利が良い指針になろう。米景気堅調とFRBの段階的利上げに沿って、長期金利がじわり押し上げられるとき、金利に連動するプログラム売買が活発化し、ドル円上昇のけん引役になろう。

 ドル円相場では、単に米金利ではなく、米日金利「差」、さらに「実質」金利差を見るべきではないかとの指摘がある。ここ十余年、米中長期金利(名目)とドル円の相関は非常に高かった(上図参照)。金利動向に着目した為替取引増加による自己実現の様相も色濃い。この間、日本の金利は0%付近で横ばっていたため、米金利だけを見れば十分だった。

 金利動向に着目した以外の為替取引が大量発生した安倍相場(2012年暮れ~15年)のような展開も起こり得るが、それが一巡すれば、米金利との連動性が再び現れる。真ん中の図が示すように、安倍相場も含めて、米日「実質」金利差(名目金利から期待インフレ率を差し引いた実質金利の日米格差)もドル円相場を一貫してよく説明できている。

 その背景を下図で見てみよう。期待インフレ率が米国で安定的だった一方、日本では円高時に0%前後に下がり、円安時に1%台へ上伸したことが分かる。リスクオン機運に乗った円安が株高を促すとき、日本ではインフレ期待が高まりやすい。円安自体が日本の期待インフレ率を上振らせ、米日「実質」金利差を縮小させる。

 その円相場は主に米金利の変化で動意づく。そうであれば、ドル円相場をつかむには、事後的に説明力が強調されがちな「実質」金利差より、米「名目」金利を指針にする方が機動的で有効と考える。

(ドイツ証券グローバルマクロリサーチオフィサー 田中泰輔)