人生全体を通じた経済生活の豊かさに影響を及ぼす要因は何だろうか。一般に大きいと思われる順に挙げてみたい。

 最大の要因は、個人あるいは世帯の「稼ぎ」だろう。こう言ってしまうと身もふたもないが、収入の多い人は豊かに暮らすことができるし、豊かさの改善を図るためには、収入を増やす努力をすることが最も効果的な場合が多い。サラリーマンなど、職業や立場が定まった段階では、自力で稼ぎを増やすことが簡単ではないが、「夫婦共働き」「退職後の仕事」「副業」の有無は、豊かさに直結する。

 言い換えると「人的資本」に有効に投資せよということになる。身につけたスキルを使う時間が長い若い頃は「学習」が重要だし、職業人生中盤では自分をどれだけ生かすかの「人間関係」、そして終盤に入ると働くことができる「健康」に対する投資が有効だ。

 次いで重要な要因は、「支出に関する習慣」だろう。これは、貯蓄の習慣と裏腹の関係にあるが、借金は著しく不利で話にならないし、後述する運用にあってもある程度の投資元本がないと、有効性が十分発揮されない。多くの専門家が説くのは、収入の一定割合を強制的に積み立てる習慣の有効性だ。

 3番目に重要なのは、「家」の扱いだ。1980年代のバブルの頃は家を早く所有することが豊かさへの道だったが、その後、多くの家計で持ち家が重荷に変わった。今後、住宅は一方的に損を出し続けるものではないだろうが、バブル時代のような有利な利殖性は発揮しにくいだろう。不動産は普通の資産という前提で考えると、これを高く買わないこと、ムダに売買しないこと、住宅ローンなどのファイナンスで失敗しないことなどが肝要だ。所有にこだわって、業者の言うままに手一杯のローンを組み、その後に物件が生活に合わなくなって住み替えるといった展開で、住宅に人生の富を吸い取られるのは避けたい。もちろん、賃貸暮らしでも分不相応な家や、下手な引っ越しは家計を損なう。