ワークス研究所の労働市場最前線
【第14回】 2011年7月28日 豊田義博 [リクルート ワークス研究所 主幹研究員]

「優秀だと思った新人がなぜ……」
若手の適応・不適応を見抜く
大学時代の経験を読み解く法

 クイズから始めてみたい。

 以下にあげる左の文章は、同じ大学を卒業し、有名企業に入社して3、4年たっている5人の若手社会人の大学時代の経験。右の文章は、社会人としてデビューした後の状況。順番はばらばらにしてある。どれがどれに対応するのか、推理してみてほしい。

大学時代の経験

 まず、大学時代の経験には、以下の文章が入る。

①受験に大失敗で、すべり止め大学に入学。「こんなところで負けてたまるか!!」と勉強に励み、難関ゼミではゼミ長を買って出る。サークルに入るも、あまりのぬるさに即リタイアし、社会人野球チームにコミット。数々のバイトを経験、「金もらってんだろ、まじめにやれ!!」とプロからの叱責を浴びることも。

②一浪で、第1志望群の大学に合格。「新たな経験を!!」と目標を掲げ、入学後すぐに、歴史のある国際ボランティアサークルに参加し、その活動に没頭。あるイベントのリーダーに立候補するなど「高校までの自分では考えられない」経験も。充実した4年間で、一生の宝となる友人もできた。

③第2志望校だけれど、一番高い偏差値の学部なので納得して入学。マスコミへの就職と自由な雰囲気にひかれ、広告研究会に入会。仕切り能力を買われて、数々の運営に参加。後々にMBAを取得する時のために講義もまじめに参加、ゼミでは会計を学び、語学のために外国人客が多いカフェで3年間バイトを続けた。

④すべり止め大学に入学することにはなったが、もともと勉強好きだったので、まじめに勉強を続け、1、2年は成績優秀者として学内表彰。サークルには2年までは入っていたが、3年からは勉強にシフトするために退会。TOEICにも自主的に挑戦、卒業時には875点を達成した。

⑤第1志望に落ち、受かった中で最も偏差値の高い大学に入学。授業は面白くないし、クラスメイトとも打ち解けず、いつしか引きこもりに。地元の塾でバイトをし、教材づくりなどで試行錯誤を重ねるなかで、まじめに大学に行こうと決意し、3年次に大学復帰。ゼミ選びに成功、気の合う仲間に出会い、キャンパスにやっと居場所を見つけられた。

入社後の状況

 以下が、入社後の状況を表す文章である。

(A)就職活動に真面目に取り組むが、いい結果がなかなかでない。自分の本意とは異なるエントリーシートを書くのにも疲れ、素の自分を受け入れてくれる会社を探そうと方針転換、ホンネで面接に臨めた会社から内定をもらい、入社。入社後はなかなか成果が出せず苦労が続いていたが、周囲の人たちに支えられ、職場に溶け込んだ。

(B)自身のセンスを活かした仕事ができる安定企業に狙いを定め、意中の会社の内定を獲得。入社後すぐに希望していた新事業担当に。成長が実感できず、自主的にCPA資格に挑戦。資格獲得後に自己申告でスタッフ部門へ。しかし、資格が生かせず、異動か転職を考えている。

(C) 特にやりたいことはなかったが、学んだ内容を生かしたキャリアをイメージして金融業界を志望。最初に内定の出た会社に入社。営業として、同期トップで受注をあげるなど好スタートを切ったが、リーマンショック後に、同期で最下位の業績に。営業に向いているとも思えず、転職を考え始めた。

(D)大学時代の経験から、マーケティングの仕事が自分には向いている、と実感。いくつかの業界にアプローチし、自分にフィットしそうな独立系コンサルへの入社を決意。入社後の配属は意中の仕事ではなかったが、主体的に取り組むと、学ぶことがたくさんあり、刺激的な日々を送ることができた。

(E) 社会に影響を与えられるキャリアを目指して就職活動。エントリーシートは、大学時代の経験があるのであまり苦労しなかった。入社後は、仕事がうまくできず怒られてばかり。また、社会に影響を与えるようになれるとは思えず、やる気が出ない。しかたなく自身の専門性を高めることに注力することに。

適応・活躍を促す「いい経験」とは

「入社後の適応・活躍は、大学時代の経験と密接な関係がある」。

 多くの採用担当者が確信していることだ。だから、彼らは、エントリーシートや面接で「大学時代に力を入れたこと」「代表的なエピソード」を問いかける。しかし、そのような関門を潜り抜けて採用されても、適応・活躍できずに、社内でくすぶっていたり転職を考えていたりする人は多い。こうした人は「採用ミス」と陰で呼ばれることになる。会社にとっても本人にとっても不幸なことだ。

 採用のしかたに問題があるのだろうか。学生がウソをついていて、採用担当はそれを見破れなかったのだろうか。 そうした側面もあるだろうが、彼らはさほどウソはついていない。デフォルメ程度のことだ。考えられるのは、採用担当者が「いい経験をしている」と思った事実やエピソードが、実は「いい経験ではなかった」ということだ。では、入社後の適応・活躍を促す「いい経験」とは、どのようなものなのだろうか。

 その要因を特定するために、数多くの若手社会人に、大学時代の経験と、就職活動の傾向、入社後の適応状況をインタビューした結果、想定以上にそれらが密接に関連していることが分かった。

 まず、就職活動と、適応・不適応の関係から見ていこう。就職活動において、大学生が着目する視点は以下の四つがある。

●組織視点……組織に対する功利的・情緒的好感(ブランド、将来性評価、愛着)
●仕事視点……仕事に対するフィット(職種、ワークスタイル、入社時の志望)
●展望視点……キャリア展望の明るさ(時間的展望、ロールモデル)
●環境視点……働く環境に対するフィット(会社の雰囲気、上司・同僚との人間関係)

 それぞれの視点をバランスよく、という人もいるが、多くの場合は、一つないしは二つの視点を重視している。

 この四つの視点は、入社後の適応、不適応を分けるポイントでもある。「入った会社の実態が、思っていたのと大きく違った」という組織面での不適応、「やりたい仕事が出来ない、仕事の実態が、思っていたのと大きく違った」という仕事面での不適応、「思っていたようなキャリアイメージが実現できそうにない」という展望面での不適応、そして「会社の雰囲気や職場の人間関係が合わない」という環境面での不適応。

 そのいずれか、あるいはいくつかの複合により、人は会社への不適応を引き起こす。就職活動時点で重視しなかったことによって、不適応を引き起こすこともあるが、重視した視点が満たされず、あるいは想定とは異なる実態であることによって、不適応を起こすこともある。

 この四つの視点と、適応・不適応には、明確な関係がある。それぞれの視点の傾向を概観しよう。

 まず組織視点。入社後に適応している人も、適応していない人も、ほぼ全員が重視している。また、この側面で不適応を起こすケースは極めて少ない。

 仕事視点は、適応者、不適応者のいずれも、重視している人は半数程度である。しかし、この視点を重視していた人でも、仕事面での不適応を起こす人は少なからず存在する。重視したといっても、実際に仕事に直面してみないと、その実際はわからない、ということだ。

 展望視点は、少し変わった傾向が見られる。不適応者に、重視している人が多いのだ。適応者にも見られるが、その中身は「海外赴任したい」「趣味の時間を確保したい」といった具体的なものであり、不適応者の多くが持つ「長期のキャリア展望を大切にしたい」「5年後、10年後に成長していたい」といった概念的なものとは異なる。そして、この視点を重視した人の多くが、この側面で不適応を起こす。

 さらに顕著な傾向が見られるのは、環境視点だ。適応者の8割が重視していたのに対し、不適応者で重視していたのは2割にも満たないのだ。そして、環境視点を重視した人は、その側面で不適応を起こすことはない。

環境視点を重視する
学生の五つの特徴

 適応、不適応を大きく分けるポイントは、就職活動において環境視点を重視するかしないか、にある。そして、この視点を重視した人には、大学生活での経験・学習に、五つの共通した特徴がある。彼らは、勉学、サークル、アルバイトなどのさまざまな経験を通じて、

●他大学の学生、社会人、教員などの多様な価値観を有する人たちと、深く交流していた。
●自身が主体者として、計画・実行・検証を繰り返し行っていた。学園祭などのハレの舞台での経験ではなく、日常生活において、小さな創意工夫を繰り返し行っていた。
●自身にとって負荷がかかること、やりたいわけではないことを、自身の目的のために、自主的に継続して行っていた。
●自身の思い通りにならず、諦めたり、思い悩んだりしていた。
●上記を通じて、自身の特性に気づいていた。他者から指摘されるケースも多い。

 つまり、こうした「異なる価値観」を受容し、「PDS(Plan、Do、See)サイクル」を回し、「試練・修行」や「挫折・葛藤」を経て、自身の「志向・適性」を発見していた。

 そして、こうした経験・学習を通じて、自身が生かされる場所=環境視点を、自覚的に、あるいは無自覚のうちに意識して就職活動を行っていたのだ。

 冒頭のクイズの答えあわせをしておこう。

 入社後適応を果たした①-(D)、⑤-(A)の行動・経験を再掲しよう。

 ①-(D)受験に大失敗で、すべり止め大学に入学。「こんなところで負けてたまるか!!」と勉強に励み、難関ゼミではゼミ長を買って出る。サークルに入るも、あまりのぬるさに即リタイアし、社会人野球チームにコミット。数々のバイトを経験、「金もらってんだろ、まじめにやれ!!」とプロからの叱責を浴びることも。

 大学時代の経験から、マーケティングの仕事が自分には向いている、と実感。いくつかの業界にアプローチし、自分にフィットしそうな独立系コンサルへの入社を決意。入社後の配属は意中の仕事ではなかったが、主体的に取り組むと、学ぶことがたくさんあり、刺激的な日々を送ることができた。

 ⑤-(A)第1志望に落ち、受かった中で最も偏差値の高い大学に入学。授業は面白くないし、クラスメイトとも打ち解けず、いつしか引きこもりに。地元の塾でバイトをし、教材づくりなどで試行錯誤を重ねるなかで、まじめに大学に行こうと決意し、3年次に大学復帰。ゼミ選びに成功、気の合う仲間に出会い、キャンパスにやっと居場所を見つけられた。

 就職活動に真面目に取り組むが、いい結果がなかなかでない。自分の本意とは異なるエントリーシートを書くのにも疲れ、素の自分を受け入れてくれる会社を探そうと方針転換、ホンネで面接に臨めた会社から内定をもらい、入社。入社後はなかなか成果が出せず苦労が続いていたが、周囲の人たちに支えられ、職場に溶け込んだ。

 ふたりの大学生活に、五つの経験・学習がしっかりと組み込まれていること、就職活動において環境視点を重視していることがおわかりいただけるだろう。

 そして、一見すると充実した大学生活を送ったかに見える残りの3人の活動は、単一のコミュニティに没頭しすぎたり、好きなこと・楽しいことばかりであったりするために、自己を自分勝手に解釈してしまい、その「誤った自己像」の呪縛から逃れられずに、社会人になってからの不適応を招いている。大学生活の持つ意味は、とても大きい。

 最後に。私は「五つの経験・学習をしている人材だけを採用せよ。『誤った自己像』にとらわれている大学生は、入社後適応できないダメ人材だから、採用してはいけない」と言いたいのではない。

 前者が良質な人材である確率は高いが、後者も、経験・学習の欠落によって「誤った自己像」にとらわれているだけであり、中には、いいモノを持っている人もたくさんいる。それを見極め、入社までに、あるいは入社後すぐに『正しい自己像』を自覚させれば、彼らは適応し、大きく伸びるだろう。

 本人の特性が自社の環境面とはフィットしない場合もある。会社は人間同様に個性を持つ。万人にフィットする会社などない。そして、会社経験のない大学生には、環境視点への配慮が欠落しがちだ。仕事視点、展望視点が欠落していても、さしたる問題はならない。しかし、環境視点の欠落は、不適応の引き金になる。彼らに、そうした認識のずれ、視点の欠落を「気づかせる機会」を与えることもまた、採用担当者の社会的使命である。

 採用の仕事とは、社会的に優秀と思しき人材を採用し、入社させることではない。自社で活躍できそうな人材を採用し、入社させ、適応するまで伴走することなのだ。

ワークス研究所主幹研究員 豊田義博)