ヨハン・ガルトゥングが日本への緊急提言として著した『日本人のための平和論』。そのエッセンスをキーワードで紹介する連載の2回目は、近隣諸国とのあいだに存在する領土問題、日本の安全保障問題、沖縄問題、憲法改正問題などについて。(構成・御立英史)

「領土問題」の非軍事的解決策

領土を、自国のものか相手国のものかというゼロサム・ゲームと見るなら、あらゆる論争は軍事的衝突へとエスカレートするしかない。国家が武力を保有するおもな理由は、まさに領土を守るためである。だがガルトゥングは、領土問題にはあきらかに2つの非軍事的解決策が存在すると考える。

領土問題には、あきらかに2つの非軍事的解決策が存在する。一つは、係争地域を共同で所有すること。もう一つは、国境を廃して互いの通行を自由化すること。なぜなら、領土をめぐる争いは国境をどこに定めるかという争いにほかならないからである。(中略)人間は戦ってでも獲得する価値がある何かがあるときに戦おうとする。その「何か」を取り除くことができれば、多くの争いや戦いは自然消滅するだろう。(p.64。以下ページ数はすべて『日本人のための平和論』

「領土の共同所有」とは?

領土問題の非軍事的解決策のひとつ、領土の共同所有とは、領有権争いのある地域を共同で管理し、そこからから得られる利益を配分するという方法である。ガルトゥングは、尖閣諸島(釣魚島)については2つのチャイナ(中国と台湾)に40%、日本に40%、環境保全や管理等に20%を配分することを提案している。竹島(独島)についても同様で、日本に40%、2つのコリア(北朝鮮と韓国)に40%、環境保全等に20%を配分することを提案している。北方四島については日本に30%、ロシアに30%、環境保全等に20%、残る20%はアイヌの人々に配分することを提案している。

現実離れしていると感じるだろうか。私の過去65年におよぶ経験とこの目で見たさまざまな成功事例から、即座ではないとしても、それは必ず実現可能だということを断言する。(中略)
私はこれまで、領土問題や国境をめぐる争いのあるところで、つねに同様の前向きな解決策を探求し、議論の場に持ち出してきた。私の提案はきわめて現実的なものだ。パワー・ポリティクス(権力政治)の世界で言う「現実主義」とか「現実的政治」とは違うが、それらよりもっと現実的である。(p.61-62)

すでにガルトゥングは中国の政府関係者にこの提案を行っており、きわめて前向きな反応を得ていることを『日本人のための平和論』の中で明かしている。

私たちは、尖閣を日本と中国のあいだの緊張の原因とするのではなく、平和を生み出す地にしなくてはならない。島の領有権をめぐる対立を、平和のために両国が協力する拠点となるように、天が与えてくれた贈り物と考えるべきなのである。(p.61)