「システムに欠陥が多すぎて使えない!」
「開発や保守・運用費用が高すぎる!」
「なぜか社員が協力してくれない……」
「経営者がシステムのことを全然わかってない……」

ホームページ、ECサイト、Webマーケティングシステム、AI、ビッグデータ、IOTなど、ITシステムが企業の経営を左右する時代。にもかかわらず、ほんの数年前まで、日本のITシステム開発は3分の2が失敗しており、今もなお、システム開発は他のプロジェクトと比べると成功率の低いのが現状です。

そこで、かつてない「発注者のための入門書」として各所で話題を呼び、発売早々重版が決まった『システムを「外注」するときに読む本』。この記事では、その「前書き」を全文公開します。

発注者は「お客様」ではなく「プロジェクトメンバー」

突然ですが、ある1つのシステム開発をめぐる裁判の例を、ご覧ください。

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ある通信販売業者(以下、ユーザー)が基幹システム刷新のための開発をITベンダー(以下、ベンダー)に発注したが、スケジュールが遅延し、納品の見込みも立っていないことから、ユーザーはベンダーに履行遅滞に基づく解除通知を送付した。

これについてベンダは、「この契約解除はユーザーが一方的に行なったものである」として、委託料の残額とその他費用の計約4億8200万円を請求した。

しかし、ユーザーも 「契約の解除はベンダーが期限までに成果物を納品しなかったからだ」と反論し、残額の支払いを拒否するとともに、損害賠償等4億5000万円の支払いを逆に求める反訴を提起した。

これについて裁判所は、「ベンダの作業が遅延した原因は、ユーザーによるインタフェース仕様の整理が遅れたこと、ベンダが移行作業方針及び移行処理方式の確認を求めたのに対し、ユーザーが回答しなかったこと、検証環境構築がユーザーの都合で延伸されたことにある」として、ユーザー側に残金の支払いを命じる判決を出した。

(東京地方裁判所 平成 27 年3月24 日判決より抜粋・要約して引用)
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この判決が示しているのは、システム開発における発注者とは「お客様」ではなく、明確な役割と責任を持った「プロジェクトメンバー」であるということです。 プロジェクト中に発生するさまざまな問題に対して、ベンダーと一緒に対応したり、ベンダーの作成したシステムをテストするなど、発注者にもたくさんの役割を果たす義務があります。

これを「ユーザーの協力義務」と呼び、その義務を果たさない発注者は、使えないシステムに膨大なお金を払った上に、損害賠償まで請求される危険すらあります。 理不尽に思われるかもしれませんが、システム開発は、決して「ベンダはシステムのプロなんだから、任せていれば大丈夫でしょ」という類のプロジェクトではないのです。

なぜ、システムの「外注」は必ずモメるのか?トラブルが裁判に発展することも少なくない

少し前まで、日本のシステム開発プロジェクトの成功率は3割と言われていました。実に3分の2以上が失敗していたのです。新しい開発技術が生まれたことなどから、今ではずいぶん改善されましたが、それでも、他のプロジェクトに比べると非常に成功率が低いのが現状です。

ちなみに、プロジェクトの失敗とは「納期オーバー」「コストオーバー」「完成したシステム に当初望んだ通りの機能が備わっていない」という3つのいずれかに当てはまるケースです。