海外食品事業の成長と飼料用アミノ酸事業の構造改革で2011年3月期は営業キャッシュフローで過去最高を達成した味の素。長期目標に掲げる「世界企業」への道がおぼろげながら見えてきた。 

 現在、約100ヵ国で展開する海外事業は、味の素の基幹事業である。2004年3月期から11年3月期までの7年間で、味の素は連結ベースで1681億円売上高を増加させた(図①)が、そのうちの1280億円は海外事業によるものだ。

 国内市場が少子高齢化で頭打ちのなか、海外市場の開拓はすべての食品メーカーにとって重要な経営課題だが、これに成功している企業は少ない。

 主要大手食品メーカーの営業利益の所在地セグメント別の内訳を比べてみると、実態が如実にわかる(図②)。最大手のビールメーカーは、その利益の8割以上を国内事業で上げている。近年、オーストラリアなどで大型買収が相次ぐキリンホールディングスも、利益では海外事業は連結全体の15%程度にとどまる。四苦八苦する同業他社を尻目に、連結営業利益800億円の約60%を海外でたたき出す味の素は、日本メーカーの中では数少ない“海外で稼ぐ力を持つ”企業といえる。

 しかし、ここに至るまでには紆余曲折があった。図①でもわかるように、海外事業が牽引し売上高は成長基調にあるのに、当期利益は05年3月期をピークに毎年減少し、09年3月期には102億円の当期赤字に陥っている。

 利益面で長年味の素の海外事業の基盤となってきたのは、バイオ・ファイン事業だ(09年3月期まではアミノ酸事業)。飼料に混ぜて家畜の生育を促すリジンなどの飼料用アミノ酸と、「パルスイート」の商品名で知られるアスパルテームなどの人工甘味料などからなる事業がそれだ。

 味の素は世界市場でトップシェアを持つこの事業で、05年3月期から08年3月期までは毎年150億円以上、ピーク時は300億円もの営業利益を稼いでいた(図③)。

 ところが、状況は09年3月期以降一変。10年3月期には赤字寸前の48億円にまで営業利益が急落した。

 背景には国際競争の激化がある。リジンとアスパルテームは、市場は大きく成長も見込めるが、製造が比較的容易で事業参入がたやすい。中国などの海外競合メーカーが市場参入し増産競争を繰り広げた結果、製品価格の下落率が市場成長率を上回った。