「企業年金を5割強削減したい」

 経営再建中の日本航空(JAL)は5月、年金制度の改定を受給対象者に通知した。

 資金繰りに窮するJALは、政府保証付きを含む1000億円規模の大型融資を受けることが6月に決まった。融資を引き出すための経営計画に盛り込まれる施策の1つが、退職給付債務を1600億円規模圧縮する年金制度改定だ。最終損失630億円という今年度業績予想には、すでに年金制度改定による特別利益880億円が織り込みずみである。

 この改定が順調に進んでいるかといえば、厳しい状況にある。会社から通知を受けるや否や、OB有志が「JAL企業年金の改定について考える会」を発足し、年金削減反対の署名運動を開始した。同会のウェブサイトによると、6月24日現在で1860人の署名が集まっている。

 改定には加入者である現役社員、受給者であるOB(受給予定の待機者を含む)のそれぞれから3分の2以上の同意が必要。OBの総数は約9000人。署名者数はうなぎ登りで伸びており、OBの3分の1以上から不同意が示される可能性は小さくない。近年、人員削減のリストラを進めるなかでは「手厚い年金を守るためにも仕方がない」と考え、特別早期退職に応じたOBもいる。彼らは特に「裏切られた」という思いが強い。

 年金改定を受け、ライバルの全日本空輸(ANA)の従業員は驚いた。改定へ踏み込んだことに対してではない。この騒動を通じて知ったJALの企業年金給付額に目を丸くしたのである。

 ANAの企業年金給付額は、月10万円を切る。対して、現行制度でのJALの給付額は月約25万円。「あまりに高額。さすがにこれを続けるのはムリがある」と漏らす。

 公的年金に上乗せ給付される企業年金については、過去に複数の企業が減額を提案して訴訟へ発展、敗訴する事例が出ている。

 ただパナソニック(旧松下電器産業)のように、3分の2以上の同意を得て、かつ反対するOBとの訴訟で勝訴したケースもある。可能性はゼロではない。経営陣のやり方次第、なのだろう。

 6月23日に開催された定時株主総会。年金や経費削減を含む経営課題に関する株主たちからの質問に対し、経営陣は具体的な数字を伴わない抽象的な回答を繰り返した。質疑応答の最後、業を煮やしたある株主が「誠実な対応」を強く求めると、会場は拍手喝采となった。

 「経営責任を追及したいという憤懣はあるが、最終的には減額幅のすり合わせでどこまで対話できるかだ」とあるOB。年金改定では“誠実”な説明、話し合いで同意票を集められるか。経営再建の実現性がここでも試される。

(『週刊ダイヤモンド』編集部 臼井真粧美)