「体が動かなくなる」「家から出られなくなる」などの理由で会社を休職し、その後、退職してからも、再就職できないまま引きこもってしまう人たちが増えている。

 ある一部上場企業の50代前半の部長は、朝の重役会議で、1週間の営業報告をしようと大勢の前で話し始めたとたん、30秒くらいで動悸が激しくなり、緊張で声が上ずって、話がしどろもどろになった。結局、話がまとまらずに、自分でもいたたまれなくなって、途中で発言を辞めてしまう。大失態だった。

 元々、人前で注目されるのが怖くて、会議の席ではなるべく発言することを控えていた。しかし、ここまでひどく緊張したことはなかったという。

 その後、部長は役員に叱責され、ひどく落ち込んで、会社を退職していった。

 20代後半の会社員は、職場で「うつ」になって休職。上司から「完全に治ってから、出てこいよ」と言われたが、もうダメかなと思い、1年後に退職した。その後、何とかしなければいけないと思い、人材派遣会社に登録。紹介されると、面接に出かけるものの、退職原因などを追究されるうち、面接で緊張するようになって、不採用が続いた。

「引きこもり」の約7割に
認められる社会不安障害

 結婚式のとき、受付でサインすると、手が震える。きちんとした場で会食しようとすると、吐き気を催す。大勢の前で挨拶しようとすると、視線を意識し過ぎて、頭が真っ白になる。声がひきつる。のどや口が渇く。しばらく黙ってしまって、ますます視線が感じられるので、上がってしまう。大量の汗をかく…。

 引きこもりの原因の1つとして、最近、指摘されるようになったのは、そんな「社会不安障害」(SAD)の症状だ。

 「最近、3年間くらい勤めると、つらくて退職する人が増えてきました。引きこもり気味の人を調査すると、約7割に社会不安障害が認められるのです」

 こう指摘するのは、社会不安障害に詳しい、東洋英和女学院大学人間科学部教授で、横浜駅前にある「横浜クリニック」の山田和夫院長だ。