長らく放送業界では、「民放は基幹放送、BS(放送衛星)は準基幹放送、そしてCS(通信衛星)は補完放送」ととらえられてきた。スカパー!は放送法の枠組みや複雑な株主構成などにより、相対的に弱い立場に置かれた。だが、2008年になって、元は兄弟である衛星通信会社と有料多チャンネル会社が合併したことにより、将来的な“一発大逆転”の可能性を手にした。(取材・文/『週刊ダイヤモンド』編集部 池冨 仁)

スカパーJSAT(上)<br />伸び悩む多チャンネルの元祖が<br />「通信と放送の融合」で捲土重来
目黒メディアセンターのモニター室。 国内すべてのデジタル通信衛星放送事業者が統合されて勝ち残った旧パーフェクTV!を母体とするスカパーJSATは、飛躍の機会をうかがう。

 「スカパー!は、いつも見ていますよ。ケーブルテレビで」

 スカパーJSATの仁藤雅夫取締役執行役員副社長兼技術運用本部長は、パーティの席などで、何度、そう話しかけられたことだろう。そのほとんどが勘違いだった。

 彼らは、衛星放送で見ているわけではない。スカパー!で放送しているのと同じ番組をケーブルテレビで見ているのだ。

 仁藤副社長は、「いちいち目くじらは立てない。言うなれば、コリー犬を“ラッシー”と呼ぶようなものだから。それだけ、世の中に定着したということだ」と軽く受け流す。

 確かに、スカパー!は、多チャンネル放送の元祖であり、その代名詞となっている。だが、心中は穏やかではないだろう。なぜなら、仁藤副社長は、1994年8月に旧パーフェクTV!(後のスカイパーフェクTV!)の母体となったDMC企画で、日本における多チャンネル放送の事業化構想を描いた張本人の1人だからである。

2009年3月期の売上高 当時は、85年4月の「通信の自由化」を受けて、日本の総合商社すべてが衛星通信事業などの宇宙関連ビジネスに大きなチャンスを見出していた。伊藤忠商事は、その直前に衛星通信の企画会社を立ち上げた。それが後の衛星通信会社JSATに発展する。