2019年の新卒就活は空前の「売り手市場」と呼ばれている。しかし、その言葉の響きとは裏腹に、なぜか本選考で「全滅」をくらう学生が増えているという。しかも、6月1日から始まったインターンシップではいくつも通過していたのに、だ。後悔しない就活のために、知っておくべき注意点とは? キャリアデザインスクール我究館館長、書籍『絶対内定』シリーズ著者の熊谷智宏氏に聞いた。

2018卒内定者が明かす「売り手市場」の罠Photo:milatas-Fotolia.com

人気企業ばかり受けて全滅する就活生たち

6月1日は、経団連に加盟している企業が正式に面接を解禁する日だ。その6月の上旬に、僕は都内の名門私立大学のキャリアセンターの方からこんな相談を受けた。

「6月の第1週目に1年間でもっとも多くの学生から面談予約が入りました。その相談内容がみんな同じなんです。すべての企業の選考に落ちてしまった、と。彼らにどうアドバイスすればよいでしょうか?」

これに似た相談を多くの大学関係者から伺ったし、実際に我究館にも同じ内容の問い合わせが殺到した。「空前の売り手市場」「人手不足」という言葉を毎日のようにニュースで見かける中で、なぜこのような事態が起こっているのか。今日はこの点について解説していこう。

「売り手市場」ではない、超人気企業の選考

まず、この事態を引き起こしている原因は1つに、超人気企業に「のみ」エントリーする学生の増加が挙げられる。「どこか内定するだろう」と、選考を甘く見ている学生が増えているのだ。ここに大きな落とし穴がある。

実は、彼らに見えていないことがある。それは、一部の超人気企業は「まったく売り手市場ではない」という現実だ。

今も昔も、人気企業は常に「超買い手市場」である。通常1万~3万近いプレエントリーが集まるが、内定者は100~300人。倍率100倍以上の会社も珍しくない。

それでも、超人気企業にしかエントリーしない学生が増えているのには理由がある。日々学生と接してきて見えてくる3つの原因を解説しよう。

過剰にお客様扱いされる就活生たち

一つ目は、大学生たちが「本選考の前までは過剰にお客様扱いされる」こと。

本選考前までの期間、企業は自社に興味を持つ学生を増やす「母集団形成」のフェーズに入る。この時期は、少しでも自社のイメージをよくするために、インターンシップ、合同説明会、OBOG訪問など様々な取り組みを行う。このタイミングでは、とにかく印象を良くするために学生と丁寧に、丁寧に接する。言わば「お客様扱い」をするのだ。ここで学生は「自分たちが選べる立場にある」という印象を持ってしまう。

インターン選考の通過で油断する就活生たち

二つ目の原因は、インターン選考だ。

通常、インターン参加に向けた倍率は、本選考の倍率よりもはるかに低い。この選考は、先に述べた母集団形成の時期に開催されるので、かなり大人数の学生を受け入れ、企業は自社に対する理解を深めてもらおうとする。つまり通過率は高く、難易度は低い。しかし、その事実を知らない就活生たちにとっては「通過した」という手応えが残る。さらには「このままいけば、インターン参加できた企業は内定するのでは」という感覚すら持つようになるのだ。今年、就職留年の相談にきた多くの学生が口々に言ったのが「インターンは通過していたので油断していました」だった。

親たちからの「売り手市場なのだから」というプレッシャー

最後に、「親からの期待」が挙げられる。

現在の就活生の親たちは、今と比べて「就活に困らなかった」世代だ。「空前の売り手市場」という文字をニュースでみた彼らは、子どもたちに「超人気企業に入れるのではないか」と期待をかける。結果的に、就活生である彼らは「親もそう言っているし」と一部の企業だけを受けることになってしまう。

これら3点が、就活生を偏った志望企業選定に導く。

新卒の学生が、超人気企業を目指したい気持ちはまったく否定しない。むしろ自然なことだと思う部分もある。しかし、事業規模や知名度(学生にとっての)だけに引っ張られることなく視野を広げてキャリアを考える機会も持ってみてほしい。心からワクワクして仕事ができる企業は超人気企業でなくてもたくさんあるからだ。僕は、3000人を超える卒業生を我究館から送り出してきてそう確信している。

「こんなはずじゃなかった」

と後からこぼす羽目にならないように、これらの3点にはまっていないかを意識しながら、志望企業選定を心がけてほしい。