家選びは、街選びから──。とはいえ、住みたい街が住みやすい街とは限らない。東京23区に絞っても、どこに住むべきかを決めるのは難しい。年収や人口動態など各種データから、23区それぞれの実相に切り込んだ快作『23区格差』の著者に、ライフスタイルに合った住み家を探す際の考え方を独自の視点から語ってもらった。

街の住みやすさは
23区格差の先に見えて来る

池田利道氏。「東京23区研究所」所長。都市計画や地域政策の専門家。近著に『23区大逆転』(NHK出版新書)。

 米国人は、一生のうちに平均で14回も引っ越すという。しかも、賃貸ではなく物件を購入し、転売を繰り返していく。“いい物はいい”という合理性に基く考え方なのかもしれないが、“新しい物は古い物よりいい”という文化の日本においては、中古物件市場が成熟しにくい土壌がある。そのため、住宅購入は、まさに、一生に一度の大きな買い物。転売せずに定住するとなれば、街選びは、非常に重要となる。一般社団法人「東京23区研究所」所長で、『23区格差』の著者、池田利道氏によれば、住みやすい街と住みたい街は、時として全く一致しないという。

 「一番、典型でいうと渋谷区でしょう。渋谷区は非常に住人の出入りが激しい。つまり、望んでやって来るけれども、出ていくわけです。出ていくってことは、結局、住みにくいってことなんですよ」

 渋谷区は、拡大を続ける渋谷駅周辺エリアは言うまでもなく、各種メディアの調査で、常に住みたい街として上位にランキングされる恵比寿をも擁する人気の区なのだが、やはり、家賃も含めた生活費がかかるということが住みにくさを助長しているのかもしれない。

 まさにこうしたお財布事情を反映して23区に格差が生まれているという。2015年の総務省調べによれば、港区に住む人の平均年収1023万円に対して、足立区のそれは335万円と、実に700万円近い所得差がある。いくら憧れても、固定費や食費が嵩む街には高収入でなければ住みにくい可能性が高いというわけだが、収入面だけを見て、家選びの努力を放棄するのは早計だ。なぜなら、「憧れの街が住んで良かった街と思えるかどうか分からないのと同様に、住んでみたら意外な良さが発見できる街も少なくないはずだから」と池田氏はアドバイスする。