市況の悪化により、前期に続き今期も基金の償却(返済)が難しくなりそうだ。原因は資本の薄さ。長年抱える課題の解決策は地道な収益の積み上げしかなく、解決には時間がかかりそうだ。

「基金償却は2012年度末も難しいのではないか──」

 業界関係者のあいだでは早くもそうささやかれている。

 基金とは株式会社でいう資本金に当たり、相互会社特有のものだ。通常、10年程度で基金拠出者に利払いと一緒に元本の償却(返済)をしなければならない。

 朝日生命保険は10年度決算の結果、11年度末に迎える1200億円の基金を返済せず、繰り延べることとなった。これは業界初のことで、それが今期末も繰り返されそうなのである。基金の繰り延べにおいて、資本額が減るわけではなく、即、経営危機に結び付くことはないが、きわめて異例の事態であることは間違いない。

 原因は資本のうち基金以外の内部留保が“薄い”ことにある。保険業法55条では、資本が脆弱な場合は基金の返済を認めないと定めてある。

 目下、市場環境は悪化の一途をたどっている。10年度末時点で朝日生命が保有する国内株式の含み損は201億9800万円。年度末(11年3月)の日経平均株価(月中平均)は9755円だった。今後、現在のような8500円程度で推移すれば、資産運用の含み損は大幅に拡大することは明らかだ。今期生み出される収益で内部留保を積み増したとしても、再び55条の規定によって基金の返済ができない可能性が高い。

 朝日生命は「今期決算を締めてみないと断定的なことは言えない」と言うが、見通しは暗い。

 朝日生命の資本の薄さは01年度決算から10年来引きずっている。01年度は米国同時多発テロによる株価下落で保有株式の含み損が拡大。その減損処理のために危険準備金を取り崩した。

 広義の自己資本の構成(図①)を見れば、他社との違いが一目瞭然だ。広義の自己資本とは基金に価格変動準備金と危険準備金などを足したもの。総資産がほぼ同規模の富国生命保険と比べて、危険準備金と価格変動準備金が極端に少ない。

 この資本の薄さは、保険会社の安定性を示す代表的な指標であるソルベンシー・マージン比率の低さにつながっている。国内大手生命保険会社の中では最下位だ(図②)。図①で示した広義の自己資本を中心とした支払い余力を分子に、災害や株価暴落などのリスク合計額を分母にして算出する。

 ソルベンシー・マージン比率の算出基準は11年度決算から厳格化される。そのため数値は各社下がり、10年度でいえば、朝日生命は602.6%から361.2%に下がる。

 そこで日本生命保険や明治安田生命保険などは算出基準厳格化に対応するため、今期、揃って基金の積み増しを行い、資本の充実を図った。ソルベンシー・マージン比率が下がらないように、分子の部分を増やした格好だ。