いまや全国のテナントビルから入店依頼が殺到している「天狼院書店」。社長の三浦崇典氏は、100人中99人に反対されたが、書店の未来を感じて起業した。
それを強烈に後押ししたのが吉祥寺「小ざさ」社長・稲垣篤子の『1坪の奇跡』。その後、三浦氏は、吉祥寺「小ざさ」朝の恒例行事、「幻の羊羹行列」に並んだ。これは1969年から行列がとぎれない、恐るべきものだ。
そこで「小ざさ自治会」ならぬ、小ざさ独特の“共同体意識”を感じた三浦氏が次に訪れたのが、人口4700人の仙台・秋保町でおはぎが2万個売れる「主婦の店・さいち」。『売れ続ける理由』の著者で「さいち」の佐藤啓二社長に出会った三浦氏は、2013年、書店を起業する。「小ざさ」と「さいち」がなければ、天狼院書店はなかったかもしれない。
そんな三浦氏が、11月9日に処女作となる『殺し屋のマーケティング』という小説を発売するという。
今回は、「さいち」の経営姿勢が今後のマーケティングの世界にどんなインパクトをもたらすのか。
誰も気づいていないこれからのトレンドを大いに語ってもらおう。

コンテンツ主義は「地代」まで縮減できる

「コンテンツ主義」が過疎地に渋滞をつくる!<br />4700人の町で1日2万個完売!<br />仙台・秋保温泉「さいち」のおはぎは<br />「ビジネスモデル」の常識を崩壊させる!三浦崇典(Takanori Miura)
1977年宮城県生まれ。株式会社東京プライズエージェンシー代表取締役。天狼院書店店主。雑誌「READING LIFE」編集長。プロカメラマン。小説家。劇団天狼院主宰。映画『世界で一番美しい死体~天狼院殺人事件~』監督。ライター・編集者。著者エージェント。2016年4月より大正大学表現学部非常勤講師。2017年11月、『殺し屋のマーケティング』(ポプラ社)を出版予定。
NHK「おはよう日本」、日本テレビ「モーニングバード」、BS11「ウィークリーニュースONZE」、ラジオ文化放送「くにまるジャパン」、J-WAVE、NHKラジオ、日経新聞、日経MJ、朝日新聞、読売新聞、東京新聞、雑誌『BRUTUS』、雑誌『週刊文春』、雑誌『AERA』、雑誌『日経デザイン』、雑誌『致知』、雑誌『商業界』など掲載多 数。2016年6月には雑誌『AERA』の「現代の肖像」に登場。

 きたる11月9日に発売される『殺し屋のマーケティング』において、女子大生起業家の七海は、「広告」「営業」「PR」をしなくとも、物を売ることができる最強のマーケティング技巧を身に着けようとしている。

 なぜなら、彼女が目指すのは「受注数世界一の殺しの会社」であって、商品は「殺し」だったからだ――。

 40年以上、行列がとだえない吉祥寺「小ざさ」の強さの秘密が、ビジネスモデルではなく、「幻の羊羹」を創り出す「コンテンツ主義」であることを知った七海は、商品(サービス)の「コンテンツの質」がマーケティングを成功するうえで、最も重要な要素になることに気づき、世界最強のエース・スナイパーの獲得に乗り出す。

「コンテンツ主義」による商品開発は、たしかに、資金も時間もかかるが、ここに投じた資金と時間は、将来的に大きなリターンを起業にもたらすことになる。
 すなわち、質の高い「コンテンツ」は、必然的に供給を需要が上回ることになるので、「需要過多」の状態を作り出すことができる。

 継続的に「需要過多」の状態を続けることができると、需要は目に見えた「行列」に形を変えて、それが「広告」以上の絶大なる効果をもたらし、また「行列」はマスメディアも自然と引きつけ、「PR」コストもかからなくさせる。結果的にマーケティング・コストは、限りなくゼロに近づく。

 この「コンテンツ主義」を取れば、世界一売ることが難しい「殺し」を売ることができる。

 しかし、「コンテンツ主義」の効能は、実は、「営業」「広告」「PR」のマーケティング・コストを縮減できるだけではない。

 なんと、経営にとって、大きな固定費となる「地代」まで縮減することが可能となるのだ。