クマ遭遇事故を自己責任で済ませてはいけない理由

クマによる事故がネットで報道されるたびに
被害者の自己責任論が投稿される

 大正4年に北海道の開拓集落で死者8人を出した、三毛別ヒグマ襲撃事故。昭和45年に大学生のワンゲル部員3人が亡くなった、日高山脈でのヒグマ事故。記憶に新しいところでは、昨年5月に秋田県鹿角市で起きた4件のツキノワグマによる死亡事故。人とクマとの軋轢、その歴史は長い。

クマ遭遇事故を自己責任で済ませてはいけない理由『人を襲うクマ――遭遇事例とその生態』
羽根田治、山と渓谷社、224ページ、1600円(税別)

 だが、本書『人を襲うクマ――遭遇事例とその生態』でも「クマが人を襲う理由も、99%以上はクマが自分自身の安全を確保するための防御的攻撃である」と解説されているように、上記のようなケースは例外中の例外である。それでも毎年、クマによる人身事故は発生するし、それがネットニュースなどで流れるたびに、コメント欄には「被害者の自己責任論」が投稿される。

 しかし、本書を読了後も、すべての事故を「自己責任」と言えるだろうか――?本書は、上述の日高山脈での事故の詳細や、クマをよく知る猟師の話、実際に襲われた人たちへのインタビュー、専門家による解説を柱に展開される。「無知で無謀な行為が引き起こした」とは言い切れない、被害者に同情したくなる事例も少なくない。

 たとえば、年の瀬もせまった2007年12月、上越国境の山。当然、雪山である。経験豊富な登山者が仲間たちと3人で歩いていて、突然現れたツキノワグマに押し倒された。攻撃されていたのは、わずか10秒足らず。痛みは感じなかったそうだが、搬送先の病院で医者にこう告げられた。「あなた、耳がないですよ」

 冬眠に失敗するクマがいることも事実だが、ふつう、雪山に行くのにクマを警戒するだろうか?

 インタビューを読んでいて特に辛かったのは、2009年9月、北アルプス・乗鞍岳の駐車場で起こった事故である。