とにかく毎日忙しい。家に戻ってもリラックスできない。日中に眠くなる。仕事のパフォーマンスも低下している。そんなときは、質の良い眠りが取れていない可能性がある。上手に眠って疲れを癒やすにはどうすればいいのか?
"眠りの博士"西多昌規先生に聞いた。

早稲田大学スポーツ科学学術院
西多昌規准教授

精神科医・医学博士。1970年石川県生まれ。東京医科歯科大学卒業。 精神科専門医、睡眠医療認定医。専門は睡眠、身体運動とメンタルヘルス。 主な著書に『眠る技術』『休む技術』(共にだいわ文庫)他。

 日本人は総じて、睡眠不足気味なのです」と語るのは、睡眠医療認定医で、睡眠クリニックでも診療を行う、早稲田大学スポーツ科学学術院准教授の西多昌規先生だ。

 「特に40歳代の働き盛りは、睡眠不足でない方が珍しい。クリニックで実際に診察してみると、“睡眠不足症候群”で困っている人が予想以上に多く来院します。他人と話している最中にカクンと寝てしまった。車を運転している最中に居眠りしそうになった。こうなると仕事に支障が出て、自分の信用や身の安全にも関係しています」

 こうした眠気の背後には、睡眠時無呼吸症候群などの病気が隠れていることもあるが、現代人で目立つのは、自分の睡眠不足に気付いていない“睡眠不足症候群”だという。

 これは残業や夜更かしなどで睡眠不足に陥っていて、日中の眠気や頭重感(すじゅうかん)、思考力低下などの症状が現れている状態のことだ。最悪なのは、思考力が低下し過ぎて自分が睡眠不足であることを自覚できない状況。そうなると過労死につながる危険性もある。

休日の“寝坊”で自分に
適正な睡眠時間を知る

 そうならないためには、まず睡眠に対する基礎知識、「睡眠リテラシー」を身に付けることが大切だ。例えば、自分の適正な睡眠時間とは、どのくらいなのか?

 一般的にいわれる適正な睡眠時間は「7時間」だが、人間の睡眠時間には個人差があるので絶対標準ではないという。人間の睡眠時間には遺伝子の関与があり、年齢や健康状態、その人の置かれている社会的状況によって変化してくるからだ。

 「簡単な方法は、休日にどのくらい寝坊しているか。普段より1〜2時間程度ならば適正ですが、3〜4時間も眠ってしまうと、平日の睡眠が足りていない可能性があります」 

 とはいえ平日の夜に、睡眠時間を長く取るのはなかなか難しい。特に、長距離通勤をしているビジネスパーソンには困難だろう。そこで解決法となるのが、できる限り“質の良い睡眠”を取ることだ。そのために行うべきことを、西多先生に挙げてもらった。

 一つは、朝は光を浴びて、夜は照明を暗くする。「生態学上、人間は光を感知して覚醒することが望ましいからです。例えば出張先のホテルなどでは、カーテンを引かずに就寝し、朝の光で目覚める。目覚まし時計の“音”ではなく“光”を使うことで、覚醒のプロセスが良くなり、それがすなわち質の良い睡眠につながるのです」。