協和発酵キリンを射止めた<br />富士フイルムの「下克上」古森社長(右)はオリンパス買収への意向を述べるのは「時期尚早」と語った

 協和発酵キリンのハートを射止めたのは伏兵、富士フイルムだった。今月16日、両社はバイオシミラー医薬品の開発と製造で提携すると発表した。バイオシミラーは特許が切れたバイオ医薬品の類似品。市場は200億円と小さいが、2020年に2兆円まで拡大するという予測もある。両社は12年春に折半出資会社を設立、13年から第1号候補の臨床試験を開始する。

 医薬品市場では特許が切れると、同一の効果を持つ安価な後発薬が登場して一気にシェアを奪う。現在は化学合成品である低分子の医薬品が特許切れラッシュを迎えており、13~15年を境に特許切れの波は高分子のバイオ医薬品へ移る。

 バイオシミラーの開発と製造は高度で専門的な技術や知識、高額な設備が必要。一朝一夕では参入できず、プレーヤーは既存のバイオ医薬品会社やバイオ医薬品受託製造会社などに限られる。

 有数のバイオ医薬品会社である協和発酵キリンは新規の開発候補品を数多く抱え、バイオシミラーに手が回らずにいた。同社と組みたいと望む製薬大手はあまたいたが、選ばれたのは製薬会社としては小ぶりな富士フイルムだった。

「高度な生産技術を持ち、異なるバックグラウンドゆえに新しい価値を生み出せる相手」と評する協和発酵キリンの松田譲社長は「合弁を進めるなかでいろいろ一緒にやろうという話は出てくるだろう。それは排除しない」とも言及。富士フィルムの古森重隆社長は「右(松田社長)に同じ」と呼吸を合わせ、関係がさらに発展する可能性に含みを持たせた。

 富士フイルムは医療などへ主力事業をシフトする構造改革を進めており、08年には製薬中堅の富山化学工業を、今年2月には米メルクからバイオ医薬品の受託製造事業を買収。医療機器事業ではオリンパスを買収する企業候補になると推測が広がる。

 武田薬品工業をはじめ製薬大手は海外で集中的にM&Aを仕掛けている。再編が停滞している国内にも下克上のチャンスはある。

(「週刊ダイヤモンド」編集部 臼井真粧美)

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