「日系メーカーの新型ハイブリッド車が少しでも米国自動車市場に活気を与えてくれると良いのだが……」。

 ある自動車部品メーカーの幹部は、ため息をつきながらも、期待をこめたように語る。

 期待をするのも無理はない。周知の通り、世界最大のクルマ市場である米国での低迷ぶりは凄まじい。

 昨年12月下旬の会見で、トヨタ自動車の豊田章男副社長(次期社長)は「米国での保有台数は2億5000万台。直近の販売である1000万台(年率換算)は25年に1回しか買い換えないという勘定になり、どう見ても異常」と発言したが、実際に2月の米国新車販売は前年同月比41.4%減の68万8909台(米オートデータによる)。なんと年率換算では912万台と1月に続き、2ヵ月連続で1000万台を大幅に下回っている。ゼネラル・モーターズ(GM)やクライスラーの経営危機をはじめ、自動車に関する明るい話題が皆無な状態の米国市場。「何か少しでも明るい話題がほしい」(業界関係者)のが本音だろう。

 そこに登場するのが、話題性の高い日系メーカーのハイブリッド車だ。日本国内で好調な出足が報じられているホンダのハイブリッド車「インサイト」が米国でも3月24日に発売、6月以降にもトヨタ自動車の3代目となる新型「プリウス」も米国で発売される。

 否が応でも期待は高まる。だが、果たして、インサイトや新型プリウスは、米国市場に活を入れる“呼び水”となりうるのだろうか。

 結論から言えば、米国市場全体を活性化するほどのインパクトを与えるのは無理だろう。むしろ「きちんと売れるかどうかさえも心配だ」という“本音”がホンダやトヨタの関係者からも漏れてくるのだ。

 その理由は明らか。先述したように、そもそもクルマそのものがまったく売れていない。そしてそれは、ハイブリッド車も例外ではない。昨年10月以降、プリウスをはじめ、トヨタとホンダのハイブリッド車は軒並み、前年割れの状態が続いている。

 トヨタの1月の実績をみても、プリウスが前年同月比29%減、ハイランダー・ハイブリッドが54%減、カムリ・バイブリッドに至っては衝撃の70%減である。
 
  ホンダも同様に苦戦している。シビック・ハイブリッドの2月実績では34%減。1~2月実績が31%減である。ある米大手ディーラーでは、昨年末のシビック・ハイブリッドの在庫は148日にも達し、通常タイプを44日も上回った。

 もともとハイブリッドが昨年、好調だった理由はガソリン価格の高騰にあった。昨年9月にはレギュラーガソリンの価格は1ガロン当たり3.84ドルまで高騰したが、現在は1.9ドル前後と2ドルを切る水準にある。

 「景気が低迷し、ガソリン価格の下がった現在、ガソリン車に比べて価格の高いハイブリッド車はむしろ敬遠される傾向にある」(トヨタ幹部)。 

 現在のところ、日本では好調なインサイトも米国での可能性は未知数だ。「インサイトは5ナンバーと米国市場向けにしては小さく、高速道路走行時での燃費はカタログ値をかなり下回るため、米国ではどれほど評価されるか、わからない」(業界筋)。

 実際、ホンダ社内でも「ガソリン価格がこれほど下がってしまうとあまり強気なこともいえない」(近藤広一副社長)と正直な声がある。

 「せめて1200万~1300万台レベルに市場が回復してくれないと売れるはずのクルマも売れない」(冒頭の部品メーカー幹部)というのが業界の共通した思いだろう。

(「週刊ダイヤモンド」編集部 山本猛嗣)