欧州の債務危機など世界経済に暗雲が立ちこめるなか、原油価格が不気味な上昇を見せている。

 7月末から下落を続けたWTIの原油価格(先物期近1バレル当たり・以下同)は、10月4日の76ドルを底に反転すると、それ以降急速に値を上げ、11月16日には103ドルに達した。わずか1ヵ月半で36%も上昇したのである。翌日以降は反落したものの、90ドル台後半でなお高値圏だ。

 最大の要因は、株式市場が低迷、債権も積極的には買いにくい状況下で、行き場を失った投資・投機資金が、原油市場に流れ込んでいることだ。

 市場の強気な姿勢の背景として、供給不足を指摘する向きもある。「リーマンショック後に産油国での生産投資が落ち込んだことが、タイムラグをおいて今、影響してきている」(大越龍文・野村證券金融経済研究所シニアエコノミスト)。

 2011年の世界の経済成長率は4%程度と予測されている。特に新興国は、減速しているとはいえ相対的に高成長だ。「需要は底堅いのに対し、供給が伸びず不足気味」(大越シニアエコノミスト)というのだ。

 これに、米国の雇用関連などの経済指標が好調だったこと、製油所の稼働率低迷による軽油・暖房油の在庫低下、リビアの生産回復の遅れ、イランの核兵器開発疑惑といった要因が重なった。

 他方で、「これらはどれもこじつけ気味で、急騰の要因としては弱い。全体の需給はむしろ緩和する方向」(野神隆之・石油天然ガス・金属鉱物資源機構上席エコノミスト)との見方もある。

 ただし、先行きは楽観できない。これから冬場の暖房油需要期に入るうえに、市場最高値の147ドルをつけた2008年がそうだったように、「世界経済が完全に失速する直前まで、原油価格は上がるというパターンがある」(野神上席エコノミスト)からだ。

 いずれにせよ、今後の原油価格を左右するのは欧州の情勢だ。

 原油市場のプレーヤーは、ほかの市場と異なり、現時点で欧州の債務危機を「後退した」ものと見なしている。ギリシャ問題がある程度の進展を見せたことや、イタリア、スペインで新政権が成立したことが理由だ。しかし、イタリア・スペインへの波及阻止に失敗すれば、世界は景気後退を避けられない。そうなれば、需要の低下と資金の逆流で、相場は30~40ドル台まで急落するだろう。

 一方で、欧州情勢に大きな変化がなければ、当面は高止まりの可能性が高い。

 さらに、いっそうの高騰もありうる。「欧州でより明確な危機対応策が打ち出されれば、110ドル程度まで上がる可能性がある。加えて中東情勢が悪化したり、米国が量的緩和第3弾(QE3)に踏み切ったりすれば、それ以上ともなりうる」(大越シニアエコノミスト)、「130~140ドルまで行く可能性も否定できない」(野神上席エコノミスト)。

 需給を無視したさらなる価格上昇が続けば、失速しつつある世界経済に、追い打ちをかけることになろう。

 (「週刊ダイヤモンド」編集部 河野拓郎)

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